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それからは、これまでが嘘のようにセルビアは闊達になった。よく動き、よく喋り、人々の心も身体も動かした。正しきは諾とし、宜しきは是とし、悪しきは否とした。その振る舞いは、およそ普通の子供の裁量を越えていた。 この変わり様に、周囲の者は目を白黒させた。嬉しい変化だが、これをこのまま喜んでいいのか、一体原因は何だったのか、いろいろなことが問題にされた。議会では何度も何度もこのことが議題に挙がったが、やがてセルビア自身が議会に立ち会うようになってからは、この話題は打ち切られた。彼の実力は周囲の懸念など問題にならないくらい、優れていたのだ。
この様子を周囲とは違った目で見ている者がいた。魔導師のセラスである。彼は大導師ゾハルの一番弟子でその秘術をすべて授かっているとの噂であった。 年若いその魔導師は、しかし日々聞こえてくる皇子の噂を愉快そうな表情で聴いていた。 「今日も皇子様は大活躍のようだね。」 本のページを繰りながら誰に言うともなく囁いたその言葉に、反応を返したのは彼の弟子の女学士カイネであった。 「え?あ、はい。そうですね。」 彼女は雑然とした部屋の中で、なんとか雪崩を起こさないように目的の物を取り出そうと必死だ。 「すごいですよ今度の嫡子は。政治も歴史も経済も。自力でどんどん吸収していって、自分で組み立てちゃってるんですから。」 ふんっ、といって彼女が古い表紙の本を引っこ抜くと、占いをするよりも明らかな結果として上にのっていた色々な物が転げ落ちてきた。 ああああ!と素っ頓狂な声を挙げながら埋もれてゆくカイネに、視線も向けずセラスは言う。 「物事は順序よくこなしてゆかないと、最後に痛い目を見るよカイネ。そこはちゃんと片づけておいておくれね。」 痛い目ならもう見てますよぅ、とむくれながら起きあがったカイネに、セラスは溜息混じりで本を閉じた。 「反省というものも大事だよ。同じ失敗はくり返さないようにしないとね。君の失敗のおかげで僕は以前、随分苦労させられたんだから。」 そう言われてカイネは思い出した。3年以上前、戦争が始まって間もない頃、セラスに頼まれて運んでいた物を破損してしまったことを。
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