D−9

 事態を聞きつけて、姉公女と妹公女が急ぎ降りてきた。白い露台に王の姿を認めると、二人は眉をひそめて王に問うた。
「兄様、一体何をなさったのです。女官がひどく怯えていましたよ。」
「産女達の嘆き声も聞こえますわ。あの、夜空の異変と何か関係があって?」
 遠く、地の果ての方をうち眺めていた王は、やがて二人の姉妹の方へ向き直った。その顔はすでに優しい、元の兄の顔になっていた。
「ああ、一夜のうちにいろいろな罪を犯したよ…。人心を惑わし、多くの母の嘆きをそそった…。そして栄えさせるべき国を今、破滅の道へと向かわせている…」
 虚脱にも近い悲しい声の響きに、二人の公女は顔色を曇らせた。王と呼ばれ続けてきた男は、嘲笑に似た笑みを漏らした。
「この国の歴史は“始祖父”が犯した罪から始まった…。その子孫たる宿命なのかな。こうして罪を犯して国を閉じるのは…」
 この国は滅ぶ。それはどうすることも出来ない事実だ。しかし、希望は託した。あとはあの子に全てを任せるしかない。
 力無く露台の手すりにもたれかかるその姿は、威厳や風格といった王の気質は微塵もなく、ただ無力で愚かな人間の男のものだった。

 北暦フェミリオンれき1106年、北の大帝都フェミリオンは、突如起こった南の大国・オキザリスとその連合国との一大戦争で、その歴史の幕を閉じたのだった。
了  


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