D−7
「どうかお慈悲を!」 泣き叫ぶ産女(うぶめ)達がすがりつく中、王は象の腹程にも膨らんだ、肉の花を見据えていた。肉厚な弁が、柔らかく幾重にも重なり、中の胎児を護り育んでいる。この国では、王族はこの肉のような温かみを持った、巨大な花から生まれる。七年という歳月(とき)を要して、少しずつ王となるべき者の肉体を造り上げてゆくのだ。 そして、この花には不思議な効用があった。近くにいると、妊婦たちは苦しむことなく安産できるのである。逆に、花が開花していない場所で子を産むと、そのほとんどは死産となるのだ。それは、この国で生まれた者たちの宿命でもあった。 王は自分も生まれる前はこの様であったであろう、肉の花の中身を見つめた。そして周りの者には聴き取れないほどに小さな声で、何事かつぶやいた後、躊躇いもなくその花の肉を切り裂いた。 「ああ!!」と誰もが絶望の声を挙げた。 女達が自分の子を無事に産む手立ては今、永遠に絶たれたのだ。 半透明な、赤い液体が肉片に混じって流れ出るのをかき分けながら、王はその内部にいる胎児を引きずり出した。それを見て、女達はさらに泣き声を挙げた。 この騒ぎを聞きつけて、奥の部屋から慌ててやってきた足の悪い老婆が、事態を見るなり王に罵声を浴びせた。 「なんということをなされたのです!フェミリオンの王ともあろう者が、ご乱心召されましたか!!王子はお生まれになるには余りに早すぎましたぞ!」
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