D−4
星に目を向けていた王は、その光がすっかり翳ったあとに、こう言った。 「楽土は崩壊した…我々もじきに滅ぶ。」 その宣告に、誰もが言葉を失った。王の言われたことが、俄には飲み込めなかったのだ。 それを見越してか、王はさらに決定的な言葉を口にした。 「この国は滅ぶ。あと数年としないうちに。そして生き残るのはたった一人であろう。」 その途端、阿鼻叫喚がわき起こった。誰もが正気を失い、その場に泣き崩れた。自分たちの命が、家族が、すべてが一瞬のうちに否定されたのだ。抗いようもなく、突然に。これで正気でいられる者がいるだろうか。 何人かの者は、この仕打ちを王からのもののように感じて、恨めしく彼の顔を見た。彼は身じろぎもせず、その光景を眺めていた。それを無慈悲な様と捉えた者も多かったろう。だから、王の瞳に深い悲しみが湛えられていたことを、気づく者も居なかったのだ。 だが、実に誰もが身を凍らせるような事態が起こったのはそれからだった。かの理士が、背後の凶星から12の彗星とことさら大きい帚星が放たれるのを目撃したのだ。その彗星群は見る見るうちに、地上へと近づいてきて、城の頭上を掠めていった。その時、人々は目を見張り、甲高い悲鳴を上げていた。彗星は長い尾を残しつつも、やがて東と南の空へと消えていった。 一体あれは何だったのかと、重臣達は口々に言い合った。下達役の者が、御言を伺おうと王のそばへ寄ったとき、男はその役目を果たすことが出来なかった。 王は、今までに見せたことがないほどの、厳めしい顔をして、奥の室へ入っていって仕舞ったからである。一人、ニエナだけが、その後を追った。
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