D−2
その日は恐ろしいほどに空がよく晴れた。一年のほとんどを厚い雲に覆われたこの国では珍しいことだ。 まるでこの事象を見よと、天が啓示しているかのようであった。天象を計る理士が空のある一点をさして、王に言上した。 「あちらです。あの北西の空の彼方に突然、大きな星が現れたのでございます。そしてその巨星は、驚くべき早さで他の星座を凌し続けているのです。これは吉兆でしょうか、凶兆でしょうか。私は空恐ろしくてなりません!」 顔を見ずとも理士が青くなっていることは、判っていた。 王は玉体を起こして黒の露台の上に姿を顕わにし、その星を真っ直ぐに御覧じた。 北西の空に初めは赤く、徐々に青く、その星は姿を変じていった。数分後には最高潮に白く輝いたかと思うと、やがてまた萎んでいった。 王はその間、ひと事も言葉を漏らさず、また瞬きもせずにそれをうち眺めていた。 側仕女(そばつかめ)達は恟々としながらその様子を見ていた。彼の表情に何か鬼気迫るものを感じていたからかもしれない。…これから恐ろしいことが起こる…。誰の胸にもそんな不吉めいた予感がよぎっていた。しかるに、誰もが王の一言を待っていた。人心を安らぎへ導く、その言葉を。 だが、王はついに人々が待ち望むような御言葉(みことば)を発せられることはなかった。
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