Cー00

 語り終えると彼女はにっこりと笑んだ。
「わかるでしょう、インデュース。あなたの名前はこの英雄からとったのよ。」
初めて聞かされる話に、自分は木を削るナイフの手を止めた。
「これがどういう意味だかわかる?」
自分は首を横に振る。姉は笑顔を崩さずこういった。
「私たちは…フェミリオンの民はあの北の故郷を1000年の間ずっと守り住んできたのよ。それは私たちの《運命さだめ》であるし、役割なの。」
でも…と彼女は言葉をつなげた。
「故郷を捨てて、別の土地に住んだという祖先の話がある。これは故郷を追われ、何のよりどころもなかった私たちにとっては救いだったわ。だから今もこうして、ここにおれるのよ…」
 姉の話は難しくてよくわからないが、自分たちが今住んでいるところは、本来自分たちがあるべき場所でないというのはわかっていた。それが、毎回聞かされる話の終着点だからだ。だが今日の話はちょっと違った。
「この英雄は…インデュースは最初からちょっと違っていたわ。体がずっと小さくて、土地を治めることができず、当然自らの役割を果たすことができない。それはどういうこと?つまりは、《始父》が仰せつかった生命の樹の種を守り続けてその地で果てるという、フェミリオンの運命からはずれていたということではない?」
自分はぼんやりとしながらもうなずいた。対照的に姉の目はいきいきと輝いていった。
「インデュース…あなたはこの土地で生まれ、育った。私たちはもうだめだと思っていたわ。生命の樹の枝が折れた今、最後の種であるあなたは育つはずないと思っていた。事実あなたは生まれるべき時期を2年もはずしたのよ。」
彼女はおかしそうに笑った。自分はなんだか恥ずかしくなって赤面した。
「恥じることではないわ。あなたは私たちの希望なのよ。あなたは、あなただけは、この運命から逃げ切ってね…」
 姉は最後に切なそうな顔をして、部屋を出ていった。
そのときの自分は、その言葉の意味を理解せず、ただ、昔国を救った英雄と名前が同じであるということを知って、嬉しくて震え上がったものだ。
 自分の名前…一族の者以外にはあかしてはいけない、その名前を自分は持っている。その名前は…
了  



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