Cー10

 大きなインデュースと姫君はすぐに追っ手の気配に気づきました。そして、通り過ぎる街の人々にそのことを伝え、警告するのですが、まるで相手にされません。そうこうするうちに、王の軍勢がやってきて海辺の砂漠の商国を攻め、城を下して金や珍しい品物を奪ってゆきました。
 また二人は、森や沼地の村人に獣より恐ろしい人間の軍隊がやってくることを伝え、警告しましたが、やはり相手にされません。獣より恐ろしい人間などいるはずがないと、信じてはもらえませんでした。そうするうちに、たくさんの軍勢がやってきて無力な村人たちを次々と捕らえ、奴隷にしていったのでした。
 二人は高い高い山を登っていました。毒の煙に苦しめられながらも、いただきについた頃、大きなインデュースは姫に向かってこういいました。
「私は、今まであなたの故郷の人々に手出ししたくはなかった。しかし彼らはもうそこまできている。私は自分の故郷の人々を守らなければならない。これから私がすることを、許してほしい。」
姫は悲しげでしたが、自分の国の民がこれからもっと大きな罪を犯すことになるのを恐れ、静かにうなずいたのでした。
 これを見て、大きなインデュースは急いで山の花に話しかけました。
「花や、花や。これから大勢の人間がこちらへやってくる。 話すなり歌うなり好きにするといい。」
花たちはこれを聞いて、うれしそうにささやきあい、惑わしの花粉をあたりにまき散らすのでした。
大きなインデュースは姫を抱えて急いで坂を駆け下り、狂言の悪魔を呼ばうのでした。
悪魔は渋々姿を現して、以前の無礼を彼に詫びたあと、彼に絶対の忠誠を誓うのでした。
 それというのも彼がすでに《根源なるもの》の力を受けていることを知っているからです。

やがて大勢の軍隊がやってきましたが、半数は毒の煙や花の麻薬粉にあてられて、山を越えることができず、また半数は雪原の悪魔によって、二度と吹雪から出ること叶いませんでした。
狂妄の王の兵は、もはや元の10分の1にも満たない数に減っていました。
 やっと自分の故郷にたどりついた大きなインデュースは、身近に迫る危機を国の人に知らせました。王国の人々は驚きましたが、すぐに戦の準備をして敵を迎え撃ちました。その数は、今の狂王の兵に立ち向かうのに十分な数の兵でした。

戦争に勝利し、英雄として迎えられたインデュースを、もう「小さい」とののしる人は一人もいませんでした。しかし、大きなインデュースは姫とともに暮らすため、またしても王国を出たのです。
 山の向こう側、まだ人間が治め切れていない土地に足を延ばし、そこで子孫を作って暮らしました。子供たちはインデュースような茶色い髪や瞳はではなく、姫そっくりの金の髪や青い目を持って生まれましたが、とても立派で徳を有していました。

彼の探していた「体が小さくても馬鹿にされないところ」がどこだかわかりますか?

彼の故国?

いいえ、彼の姫君の許なのです。


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