Cー9
黒々と煙が立ち上る西の地平を目にして、人々は何か不吉なことを予感したようでした。 城や町は狂乱し、家を捨てて逃げ出す者もいました。 そんな混乱のなかで戻った大きなインデュースと姫君は、王に決して暖かく迎えられたわけではありませんでした。むしろ姫のことは死んだ者としてお認めにならず、姫を城の奥に閉じこめ、口汚くののしったのでした。 また王は、なぜ竜にその身を捧げなかったのかと、姫を強く問い質し、守りの剣の存在を知るとそれを取り上げてしまいました。 なぜ王がそれほどまでに怒ったかというと、実は王は竜と取引をしていて、姫と引き替えに絶大で邪悪な力を得ることになっていたのです。それを大きなインデュースにつぶされて、王の狂気はますます激しくなってゆきました。 悲嘆に暮れる姫を、大きなインデュースは励まし続けます。門番の目を欺いて、毎日姫の元にやってきては、自分が今まで旅してきた国々のことを話し、この土地がいかにすばらしいかを褒め称えるのでした。 ある日姫は、インデュースの故郷のことについて尋ねました。大きなインデュースは少し迷って、しかしこの姫にならと自分の故郷の秘密を明かします。それを聞いた姫は、一番すばらしいのはあなたの故郷ですよ、と大きなインデュースをたしなめたのでした。 そして二人は、大きなインデュースの故郷にゆくことを決め、いよいよ城を出るのでした。王は城から出ることを決して許さなかったので、夜陰に紛れての逃亡です。
二人が国を去って、それに気づいた王は、兵を集めてこういったのでした。 「先年の禍災で人心は乱れ、国は大いに荒れた。それもこれも北からやってきた、あのならず者の所為である。」 そしてあの守りの小刀をかざしてこういうのでした。 「その者の故国にはこのような金や銀が豊富にある。それを手に入れれば国は再び潤い、まえ以上の繁栄を享受するだろう。」 憎悪と欲望にかられた1万の兵は、二人の足取りを追って北へ北へと歩を進めたのでした。
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