Aー8
サムは愕然とした。そんなことが、一体、あり得るのだろうか。
「…もしかして、親がいない?」
女は首を振る。
「そういうことではないの。私たちに名前は必要ない、私たちは全てでひとつの“意志”なの。だから個々の名前は必要ないの。」
サムにはよくわからない。全てでひとつ?“意志”とは?
「だって、じゃあ、ダナエ様は?」
「それは、私たち一族を象徴する名なの。【ダーナ】はあなた達がいうところの“女性”。【エ】はその複数、一族全体。
あの方は、私たちを統率する“意志”そのものなの。」
サムの思考はますます混乱する。それでも、わかることはある。
「…じゃあ、君には名前がないんだね。」
女は寂しそうに頷く。
「それなら、俺が君に名前をあげるよ。いいかい?」
女は、これまでで一番の笑顔を見せた。
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