Aー7
サムは顔が紅潮するのがわかった。全て見抜かれている。自分の罪、その嘘。そして…
「何を馬鹿な!!」
神殿を出てから、彼は叫んだ。
女王は異議を申し立てる暇もないまま、奥へと引き下がってしまった。 いや、あの女王相手に一言でも言葉を返せただろうか。彼女の声は、耳よりも脳髄、その最も深いところまで響いてくる。その命令は、自らが全身に発信する指令よりも強固な物だった。 それでも、彼の理性はその命令に徹底抗戦する。
「あんたはそれでいいのか!?」
サムは女に振り返る。傍らの女は困ったようにサムを見つめる。 「でも、還りたいのでしょう?」
「例え無事に帰れたとしても、こんな方法は願い下げだ!」
…サムは、頭の血が一気に下がる気がした。女が大変悲しそうな目でサムを見ているからである。 「私のことは、嫌い?」 その美しい目から涙がこぼれる。サムはあわてて訂正した。
「いや、そういうことじゃない。貴女は親切にしてくれたし、こんな俺にここまでつきあってくれた。感謝しているんだ。だからこそ…できない。」
女はにわかに微笑んだ。
「私のことは気にしなくていいのよ。むしろ、こうなって喜んでいるのだから。」
サムは、再び顔が紅潮するのを感じた。
「な、なにを…。いや、そういうことじゃなくて。だって、おれは…貴女の名前だってまだ知らないのに。」
「地上の人は名前を大切にするのね。でも残念だけど、私の名前は教えてあげられないわ。だって私には名前がないんですもの。」
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