Aー4

 女は自らの集落に、男を案内した。そこからは、先程のメロディが響きあっていた。
音楽と思ったのは、この村の女たちの歌声であった。しかし、何と唄っているのかはわからない。 確かに、声だけなのに、彼の耳には音曲とでしか知覚できなかった。
 サムを見ると、女たちは次々に歓迎の言葉を言祝ぎした。女たちは、全てが白く、美しく、善良で、優雅だった。
サムは眩暈を感じた。強くて汚れのない光に、全身を射られたように感じた。
 冷静さを取り戻したとき、この集落には、男が一人もいないことに気がついた。そのことを先の女に問うと、
「初めから殿方はおりません。」
と優しく云われた。サムの混乱は、激しくなった。
 サムは、集落のひとつの家に招かれ、手厚い歓迎を受けた。 銀の皿に、芳醇な果物がたんと盛られ、血のように紅い酒や、黄金に輝く貴腐酒が出された。肉はなかったが、それでも充分なくらいに食べものは美味だった。
 腹が大分ふくれたあと、彼はこの土地からどう行けば、アラヒナへ往けるのかを聞いた。 アラヒナとは、東方にあるという、豊かな大国の名である。
 先の女は云った。
「貴男だけの力では、ここから出ることはまかりなりませんよ。」
サムは驚いた。だって、ここまでたどり着けたものを、出てゆかれないと云うのか!?
「では、どうやってこの国まで来たのかを、覚えてらっしゃいますか?」
サムは首を振った。女は嘆息した。


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