Aー3

 サムは呆然としていた。その女があまりに美しいのに、自分が存在していることが恥ずかしくなった。 女は透き通るような肌に、長い銀の髪――この早瀬のように――と、角度によって、いかなる色も映し出す瞳を持っていた。
すらりとした体に纏う一枚布は、光を編み込んだようにまぶしかった。
「…あなたは誰です?」
女は首を振って、これには答えなかった。
「ここは、何処ですか?」
この問いにも、困ったような表情を浮かべたが、男の善良なるを知っているようで、やがて笑顔で
「ツンヴェルギアです。」
と答えた。男には、そんな名前の国に、心当たりがなかった。
「ここはどの辺りです。サハラジからは?どのくらい離れているのです。」
「もう、ずっと遠く…」
サムは困惑した。そんなはずはない。自分はサハラジの村から追放されて、いくらも歩けなかったはずである。 しかし、女が嘘をついているようには見えない。
「貴女はここで、何をしているのです。」
「水を汲みに来ました。」
 男はハッとして背後の川を見た。相変わらず、川のせせらぎは針のように輝いている。女は造作なく川に近寄り、持っていた銀の瓶で水を汲んだ。サムはこの所為を見て、また困惑した。
「この水は、外に人にとっては毒ですよ。冷たすぎますから。」
女は笑んだ。サムは、この女がガラスのように脆そうなのに気づいた。


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