Aー2
目が覚めたとき、彼は天国にいるのだと思った。
雹風は失せ、静かで穏やかな大気が辺りをつつんでいる。その清純なのに、彼は驚いた。
周りを見回すと、辺り一面、短い草で覆われている。よどみなく、全くの均一に草は生えていた。
さらに奇妙なことには、木がただの一本も見あたらない。代わりに、氷の柱のような、透明な岩がそこここに突き出ていた。
近くへ寄ってみると、それは石英であることがわかった。
「石の花…」
彼はその巨大さに驚いた。そしてその美しさに…。その輝きは微妙で、彼は初め、プリズムのように分光しているのだと思った。
しかし、空を見上げると太陽の姿はない。代わりに虹のような光が入り乱れて遊んでいるのが見えた。
――何という景色だろう。――
彼はその不思議な光景に心奪われるばかりだ。
すると、どこからともなく音楽が聞こえてきた。美しいメロディだった。誘われるように、音のする方に歩き出した。
いくつかの丘を越え、谷と過ぎると川があった。どのくらい早い瀬なのだろう。流れる水が、絹の糸のように白くて細い。
思わず手をさしのべて、水をすくおうとすると、後ろから声がかかった。
「その水に触れてはいけません!」
驚いて手を引っ込めると、懐から山羊の骨がこぼれ落ちた。骨は、川の水に触れたとたん、凍り付いて霧散した。サムは驚愕した。 山羊の骨は、彼の罪の証として――また、お守りとして――彼の父親である長老から手渡された物であった。
驚いて、振り向くと、そこには一人の女が立っていた。
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