9−9

「あれ、お前、またここにいたのか。よっぽど水のそばが好きなんだな。」
肩に背負った鶴嘴を地面に降ろして、呆れ半分で笑っている。
「変わってるよな〜冬場は誰も近づきたがらない場所だってのに。」
冗談めかしたその言葉に、イウギは少々むっとしながら言った。
「それならお前はどうなんだよ!?」
だがヤナイは別段、これには応じず言葉を続ける。
「水にはいるときは気をつけろよ。ただでさえ水が冷たくなってるんだ、流れの速いところに行ったら足が動かなくなるからな。」
「わかってるよ!それよりもこれ…なんだか分かる?」
そういって、イウギが差し出した物を眺めると、ヤナイは俄ににやりとした。
「ぼうず、好い物見つけたな。こりゃあ、丹粟(たんぞく)っていうんだぜ。今なら、換金屋に持っていけば、それ一粒で今日の飯代ぐらいは賄えるって言う代物だ。」
「・・・?どういうこと?」
「まあ、それぐらい高いって事だ。ついこの間まではこのあたりの名物だったんだが、最近とんと出なくなっちまってな。だから買い手の方で値上がりしてんだよ。」
よく分からずに、イウギが首を傾げる。だが、そんなことはお構いなしに、青年は話し続けた。どりらかというと独り言かぼやきのようである。
「まあ、市場ルートも南の安価な方に鞍替えしたって言うから、換金屋の親父も必死なんだろうな。高値をつけて買い取って、それで市場に持っていっても、買値と売値が釣り合わなくなったらおしまいだ、夜逃だよな。」
ははっ、と揶揄したように笑うヤナイの声は、しかし自嘲じみていて現地人の苦労がにじみ出ている。ヤナイ達が日夜掘って探しているのは、まさしくこれの鉱脈なのだ。
 それを理解できるはずもないイウギは「ふ〜ん」といって、別のことを考えていた。
「これ…集めれば高く売れるんだよな。お金ってのが、たくさん手に入るんだよな。」
「まあ…そうだが。」
いって苦笑いをするヤナイには気づかずに、子供は手の中の小さな赤い石粒に目を落とした。

 …これを、もっと集めれば。


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