10−1
次の日から、イウギは川の中に入って赤い粒を探し始めた。セルイの医療費を自分の手で稼ごうと思ったのである。 朝の川の水は殊に冷たくて、それで手を休めることもしばしばだったが、大抵は平気だった。彼は寒さには強い人種なのだ。 午前中をかけて川の上下を探し回ったが、収穫は思う様にはいかなかった。いくら指先が細い彼の手でも、素手で拾うには限界がある。これは、と思う欠片があっても、掬う途中で流れていってしまうことが何度かあった。 曇天の中でもそろそろ午後かと思う刻に、イウギは作業を一旦中断して、ヤナイに教えてもらった換金所に向かった。 町の中は相変わらず人が少なく、路上に出ている人の影は皆無に近かった。この閑散として、少しいじけた空気は見覚えがある。街道を通って過ぎてきた村と同じものだ。あの時には分からなかった、人々の憂いが、今のイウギには少し分かるような気がした。 換金小屋に着いて、丹粟を見せると、店の親父はイウギの風体をしばらくじろじろと見ていた。ヤナイの名前を出して、ここで替えてもらうようにと教えられたんだと説明すると、秤と分銅を取り出して、目方を量り始めた。この特殊な装置が気になりながらも、イウギは多くの人が換金の時そうであるように、緊張した面もちで店主の一挙手一投足を眺めていた。 量り終わると、主は収穫に見合う分だけの銭を袋の中に入れてくれた。料金を誤魔化すことも出来たが、あとでヤナイ一家に問いつめられると厄介だと思ったのだろう。一家はこの町ではなかなかの良識派として通っている。 金額は、昨日の分も足して子供が一ヶ月にもらう小遣いより多い程度にはなった。それを握って、イウギはまたあの坂を駆け上り始めた。 実をいうと、主の用心は不要だったのだ。
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