9−8
自分の申し出が受け入れられなくてイウギは少々憮然として坂を下りた。相変わらず青年はかたくなだ。なかなかこちらの気持ちを受け取ってはくれない。 行くあてもないので、少年はまた川辺に来ていた。赤いせせらぎは濁った川床を滑り続けている。イウギはいつもの所に腰をかけた。 …青年はなかなか気持ちを受け取ってはくれない。彼は知らないのだ。自分がどんなに青年に感謝しているか。自分を闇から救ってくれたことを、支えになってくれたことを、それでどんなにか心安らいだかを。だから、苦しんでいる彼に今度は自分が手を貸したい。自分だって、彼の役に立ちたい。いつまでも心配の種ではいたくないのに。 ふう、と溜息をつくとまた川の流れを眺める。川の水は透明で、なのに赤く見えるのは、川の底の石が汚れているからだ。長い年月をかけてこびりついたその錆は、どんなに清らかな水で注いでも落ちないような気がした。 (なんで、こんなにも赤い色なんだろう…) ぼんやりとそんなことを考えながら川を眺めていると、キラリと何かが光るのに気づいた。なんだろう、と思って近づいて川の中を覗いてみると、確かに底で何かがキラキラ光っている。水の中に手を突っ込んで、流されないよう慎重に掬ってみると、それは小さな豆粒大の結晶であった。 「なんだろう…これ。」 それは宝石のように美しい深紅の石だったが、指先で強く触れると端から砕けてしまうようなもろい石質だった。 これと同じ物がもっとないかと、川底をじっと見てみると、これよりは幾分小さい欠片が石の間に溜まって光っている。イウギは手で拾えそうな物だけでも掬おうと、冷たい水の中に手を沈めた。
気が付くと、夢中になって赤い石を探していた。空はもうすっかり夕暮れで、男達が仕事先から帰ってくる時間である。 さすがに手の感覚がなくなってきたのでイウギは川から上がった。足を空気にさらすと、むしろ温かいと感じるくらいに冷えていた。遊びの余韻に浸って、手の中の収穫を眺めていると、不意にヤナイの声がした。
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