8−8
イウギは再びあの川縁で踞っていた。時々手近な石を拾っては、川瀬に投げつけたりしていた。 (自分はなんて無力なんだ…彼に何もしてやれない…) 青年の病気について、もっと詳しく訊いておくんだった。彼はすぐに治ると言っていたが、二日も寝込んだままならその言葉も自分への気休めだったように思う。 このまま、手の届かないところで別れてしまうのが一番嫌だった。 また一つ、石を川底に投げつける。コポン、と音がして石は他と見分けのつかない川床の一部になった。 「あれぇ、お前またここにいんの。」 突然、背後であげられた素っ頓狂な声でイウギは振り向いた。ヤナイだった。昨日より引き上げる時間が早いじゃないか、と思ったら、どうやら自主撤収してきたらしい。 「だって、いくら掘っても無駄なんだって。もう鉱脈は掘り尽くしたと思うんだよね、俺は。親父達は往生際悪く、まだ頑張っているけど。」 突然現れて、何の話かと思えば仕事場の話題らしい。どうやら鉱山で鉱物を掘り出すのを生業としているようだ。 へぇえ、と気の抜けた溜息をすると、彼も河原に落ち着いた。 「どうだ、診療所には行ったか。」 イウギが無言で頷くのを見ると、ヤナイは言葉を続けた。 「あそこの先生、変わり者だろ。医者のくせに無精ひげはやしてるし、腕はあるんだけど、なんか頼りない感じでさ…。で、目当ての人には会えたのか?」 イウギが答えず、じっと川面の方を見つめているのを察して青年はあー…といった。 「やっぱ、だめだったか。会わせなかったって事は、あんまりよく無ぇな。んー…あの人、話せば分かる人なんだけど…」 そう言って、しばらく黙っていたが、何事か考えついたらしく、一言よし、といった。 「俺が一緒に行って話つけてやるよ。ちょうど、口内炎が気になってた所だし。」 突然の申し出に、イウギは呆然としてすぐには言葉がでてこなかった。 「え、な…、本当か!?」 「おうよ。あ、お前疑ってるな?俺の実力を。」 いや、知らないから、という意味で横に振った首の動作をヤナイは肯定的に解したようだ。 「よしゃ!じゃあ、いくか!」 だいぶ気をよくして張り切るヤナイの後ろを、イウギはどちらかと言えば不安な目つきでついていった。
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