8−5

 これを聞いて、イウギははっとした。
そうだ、セルイの居場所を訊かなければ!
「ねぇ、セルイはどこ?どこに連れていったの!?」
これには女将さんの方が顔色を曇らせた。
「どこってねぇ…。あそこはアンタみたいな子供が行くところじゃないよ。病人が行くところさ。行っても会わせてもらえないだろうし、嫌なモノ見ちまうかもよ?」
 そんなところにセルイはいるのかと思うと、ますます彼のことが心配になった。だめだといわれれば言われるほど、行かなければという衝動に駆られた。
「ねぇ、お願い!そこへ連れて行って!!セルイに会わせて!」
 女将さんはいつまでも渋い顔をしていた。彼女自身、その場所が好きではないのだろう。
「そうさね、男どもが帰ってきたら、様子を見に行かせるから、それで我慢しなさい。さ〜仕事仕事。」
 半ば誤魔化された形でイウギの願いは却下された。女将さんが奥へ消えていった後、イウギの心にはますます不安が募っていった。

 別段この町ですることもないので、イウギは町の中の探索に出かけた。あわよくば、診療所とやらを見つけてやろうと思っていた。
 町はルツェといったか。オリアタよりはずっと小規模な町だった。道路も石畳などでなく、赤い土に、深い轍(わだち)がくっきり残るような田舎だった。が、家の数は今まで通ってきた村落より格段に多かった。ただし町の人の多くは出払っているようで、町の中は閑散としている。イウギは診療所の場所を聞けるような人を見つけられなくて、途方に暮れてしまった。
 とぼとぼ歩いている内に、やがて町の端っこまで辿り着いてしまい、彼は行き場所を無くしてしまった。仕方がないので町の柵の外まで出て、森の方へちょっと寄ったところに例の川を見つけ、傍らに腰を下ろした。
 その川は相変わらず赤く錆び付いていて、濁っていた。なんでこんな色をしているんだろう。上流で土砂崩れでもあったのだろうか。
 川床は比較的平らかな丸石で、赤い沈殿物はその石の表面に張り付いて水を赤く見せているだけだった。水自体は思ったよりも清らかな流れで、しかし口を付けるには憚られるような色だった。
 イウギはこの平坦で、案外速い川の流れにいつまでも見入っていた。川面を見ていると、自然と泣けてきたが涙も嗚咽も、川の水に押し流されていくようだった。

 一体いつまでそうしていたことだろう。あたりはだいぶ暗くなって来ていた。それでもイウギはそこから動く気になれなかった。冷たい水の流れが、イウギたち一族が最も好む所だったからかもしれない。
 ひとつ、ふたつと家々に明かりがともり、家族が帰宅していく。だが、川縁で踞るイウギに気づく者はいない。いつかのように、自分を見つけてくれる人はもういないのかと、また泣きたい気分になってきた。その時、
「あれ。ぼうず、こんなところで何やってんだ?」
若い男の声がした。違うと分かっていても、期待と安堵が入り交じってとっさにふり返る。
 そこには帰宅途中のヤナイの姿があった。


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