8−2
イウギは外と女将さんの顔を見比べながら、ひどく困惑していた。この状況はこのまま放っておいていいものかどうか判断がつかなかったからだ。 「安心をおし。悪いようにはしないから。部屋はいくらでも空いているよ。この時季、他に客なんていないからね。さっきのはウチのもんさ。大丈夫。さ、こっちへいらっしゃい。」
奥へと通されると、そこはダイニングになっており、夕食の途中だった。女将さんは客用の皿を一枚取り出すと、そこに肉野菜のスープを盛ってイウギに出した。だが、イウギは匙をとる気にはなれなかった。ただただ、相方のことが心配だった。 「疲れてるんだろう。ちゃんと食事をとらないと。あの人だって安心できないよ?」 コトン、と白湯を入れたコップを傍らに置く。その女将さんの顔をイウギはまじまじと見た。その顔に悪意はなく、先程のことも善意で行ってくれたのだと何となく感じた。だが、それでも先程のやりようはイウギの腹に据えかねた。 「なんで、あんなことをするんだ…。セルイは…具合が悪くて…俺が一緒にいてやりたかったのに…!」 「気持ちは分かるけど、アンタにはどうしようもできないよ。何の病気か知らないけど、お医者に見せるのが一番なんだよ。それに、ウチに病っ気(やまいっけ)を持ち込まれるのも勘弁なんでね。」 イウギは依然、厳しい目つきで女将さんを見ていた。 そうこうしている内に男たちが帰ってきた。女将さんは戸口でやれやれと息をついている二人にすかさず子細を尋ねた。 「どうだい?様子は。」 「いやぁ、何とも言えねぇって。とりあえず、今晩様子を見て、明日診療方針を立てるってさ。」 ふう、と息をついて答えたのは若い男の方だった。20代かそこらの中背の男で、女将さんの息子であるようだ。奥で頷いた髭面の男は旦那さんだろう。 不安そうに大人たちの会話を聴いているイウギの視線に気がついて、若い方がぽんと手を頭にのせた。 「心配すんなって。あそこは、それなりに設備も整ってるし、いざとなったらお前さん一人くらいウチで面倒見るからさ。」 それを言ったとたん、女将さんの疾風のような一撃が男の後頭部に炸裂した。その手の早さにイウギは目を丸くした。 「いっってぇ!!」 「縁起でもないこと、いってんじゃないよ!!本当に馬鹿なんだから。」 何のことを言っているのか、イウギにはよく分からなかったが、どうやらここの人たちは面倒見は良さそうだ。
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