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宿屋に雪崩込むようにして入った二人は、ようやく明るいところで息をついた。背中でぐったりしている青年をイウギは早く床につかせたかった。 この騒ぎに驚いて姿を見せた宿の女将さんに、イウギは急かすような口調でこう言った。 「部屋を…2人分、今すぐお願い!」 これを聞いた彼女は、イウギと青年の様子を見比べ顔を顰(しか)めた。 「部屋はあるけれども、病人は泊められないよ。見たところ、そっちの人は具合がだいぶ悪そうだね。」 疲弊しきっていたイウギはすぐに抗議することが出来なかった。 「…な、んで…」 「だからね、病人はお断りなんだよ。村の外れに診療所があるからそっちへ泊めてもらった方がいい。」 ちょいと!と、女将さんは奥の方へ呼ばった。すると、奥から体格(ガタイ)のいい男2人が現れて、イウギの背から青年を引き降ろした。 そして、彼を抱えたまま、外へ出ていこうとした。 「な、なにするんだ!どこに連れてゆくんだよ!」 あわてて追いかけようとするイウギの腕を、女将さんが掴んで引き止めた。 「およし!子供がいくところじゃぁ、ないよ。あんたはここに残りなさい。」 「いやだ!いやだ、セルイ!」 懸命に腕を振り払って追いすがろうとするイウギに、セルイがそっと振り返って静かに言った。 「私は…大丈夫です。イウギさんはこちらに残っていてください。女将さん、その子のことよろしくお願いします…。お金は後でちゃんと払いますから…。」 「ああ」と返事を返して女将さんは目で2人の男を促した。セルイはそのまま夜の向こうへと消えて行った。
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