7−2

 西に傾きかける空を眺めながら、青年は大きな溜息をついた。とんだことになってしまった…。いや、冷静に考えていれば簡単に予想がつく結末じゃないか。それを今まで敢えて選択していた自分にすべての責任はある。あの子に悪いことをした。本当に申し訳ない。

 息はどんどん上がっていった。呼吸の頻度が高いのは、それだけちゃんと酸素を取り込めていないからだ。
 体のだるさも全身に及んでいた。手足は浮腫んで重たく、指先さえ思いのままに動かせなかった。ここまで体調が悪化したのはやはり、自分の無意味な意地が罰せられた結果だとしか考えられなかった。
「っく・・・」
渾身の力を込めて、傾いた体勢を立て直す。肩に入れた力がきちんと腕に伝わらず、背が堅い樹皮にぶつかった。
 何度も遠退く意識の中で、彼は意外にも冷静に今後の処し方について考えていた。自分の、と言うよりはイウギのことだ。彼にとってはこのまま野宿でもなんら問題はない。だが、あの子にそんな不自由な思いはさせたくない。かといって、今すぐ体が動くようになるのは到底無理な話だった。
(このまま自分が村に入るのも、良くない気がする…)
 彼にはこの状態がいつかは改善するという絶対的な自信があった。だが、その過程であの子を大変驚かせる事態が起こるであろうということも目に見えていた。できれば穏便に事を済ませたい。
 熱っぽい頭の中で彼が考えたことはどんなものだったか。それは今の状況下での彼にとっては最善のことでも、実際には決して最良の方策とはいえなかった。しかし、彼はそれに気づく正眼というものを失っていた。青年はまだ拘っている。
(この子に不自由な思いをさせてはいけない…)
彼が先程「意地だった」と認めたこの条件さえなければ、彼はもっとましなことを子供に与えることができただろうに。しかし、彼がそれでもこの条件を捨てきれなかったのには理由があった。そして、それは彼の魂と深く結びついた問題だった。だが二人がこれに気づくのはもっと後の話だ。

 今は今後の旅のことについての問題が先だった。こうなってしまった以上、自分はここで、このまま“血裁”が下るのを待っていた方がいい。村落には入らず、森の中で事をやり過ごしたい。
 青年は呼吸を落ち着けるために、また大きく溜息をついた。だが余計に疲れるだけで徒労に終わった。彼はかすむ目で再び空を見やった。わずかに西の方が朱に染まっている。・・・夜が近い。このまま…ここで…
 そう思ったとき、下の沢の方から小さな足音が近づいてきた。


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