6−7
朝ともなると、気温の冷え込みは最下点に達した。火の入った暖炉のそばで、イウギは先に食卓に着いていた。温かいミルクを口の中へ注いでいると、セルイが身支度を整えてやってきた。 「おはようございます。」 そう言って、椅子の一つに手をかける。その手に、なにやら白い曝しの巻いてあるのを認めて、イウギはそれが何を意味するのかを訊こうとして口を開いた。その時、家の戸がおもむろに開いて、薪を抱えた老婆が入ってきた。 「お〜寒い寒い。嫌だねぇ、降ってきたよ。」 その言葉を聞き、イウギは質問しようとしていたことも忘れて窓枠に飛びついた。確かに、窓の外では白いものがチラチラしていた。とても儚げに宙を舞い、地面に着くとあっという間に消えてなくなった。 「今回のは積もりゃあしないよ、わかるんだ。半日もすりゃあやんじまうよ。でもこれが大雪になるまであっという間さぁ。」 どっこいしょといいながら、彼女は居間の中へあがった。セルイが如才なげに近寄って、彼女の荷物を引き受けた。イウギは窓が曇るほど近づけていた顔をガラスから引き剥がして、元の席にきちんと着いた。セルイが起きてくる前に、だいぶ老婆に躾られたものらしい。実を言うと、彼女はこのところ久しくなかったほどに活気づいていたのだ。薪のことをセルイに任せると、彼女はよちよちと台所の方へ向かっていった。 「ちょっと、おまいさん、皿を運ぶのを手伝っておくれ。」 そう言われると、イウギは矢のように椅子から飛び出して、彼女が食器棚から出した皿を慎重に運び始めた。セルイはその光景を(薪をくべながら)微笑ましく見ていた。 ほどなくして、テーブルはすっかり朝膳の風景となった。昨夜のスープの、さらに味の染みたのを彼女はテーブルへと持ってきた。イウギは席について、それが皿にトロトロと注がれるのをじっと見ている。暖炉のところで踞っていたセルイも、しばらくして所定の席に着いた。 「あんたたちはこれからどちらへ行くのかね。」 「はい、ケレナを目指してさらに南西へ進むつもりです。」 「ああ、先は長そうだねぇ。歩いていったらあと4,5日はかかるだろうよ。雪が降り出すまでにあと1週間もないから、行くなら急いだ方がいいね。」 そう言って彼女はまた奥の部屋に入っていった。セルイは手にしたまだ一つ目のパンを、半分も食べないままテーブルに置いて、ふうとため息をついた。 「もう食べないのか。」 「いえ、手をつけたものは全部いただきますが、余り食欲がないもので。お腹がいっぱいなのですね。」 そう言って彼は手にしたパンを無理に口へ押し込んだ。イウギは起きた直後に何かつまみ食いでもしたのかと怪しんだ。
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