6−6
二人の部屋は別々に用意されていた。それはセルイにとって幸いなことであった。 村に入ってからしばし、体に変化が現れ始めた。ざわざわと背筋に悪寒が走り、両の手足が徐々に重くなった。わき腹に時々刺すような痛みが走り、歩くのが辛くなってきた。だから村の中をあちこち聞きまわる前に、宿が見つかったのは彼にとって幸運だった。 それでも夜、老婆の話の相手などをしているうちに、どんどんと余裕がなくなってきていた。本当はずっと、誰もいないところで休みたかった。 彼は暗い部屋の中で、手探りで荷を漁った。わき腹の痛みが抑えきれず、右手はずっとその部位をつかんだままだ。なので左手だけでの捜索である。程なくして彼は目的の袋を引っつかみ、中身を引きずり出した。それは前の町で買い貯めて置いた幾重もの曝しであった。 それを、腹や胸、両手足の首や甲など思いつく限りのところにきつく巻きつける。それで幾分痛みを紛らわすことができた。できることがすべて済むと、彼は力尽きたように床に倒れ伏した。もはや体力と精神力の限界だった。混濁した意識の中で彼は必死に理由を考えていた。 一体…この痛みはなんだ。この気怠さは、この吐き気は。苦しい…こんなに苦しいのに、裁きがまだ降りない。こんなことは初めてだ。潔斎の間中、身を慎まなかったのがいけなかったか…闇の勢力の暴挙を食い止められなかったことが悪かったのか…これは何かの罰なのだろうか? ああ、そういえばすでに自分は戒律のひとつを破っている。《他人の体を傷つけないこと》命を救うためだったとはいえ、自分は人の体に刃を突き立てたのだ。…そしてふたつ目の破戒にも手をかけた。《死を厭わないこと》確かに自分は死を恐れぬ覚悟でこの旅に臨んできた。死など恐れた試しはなかった。そう、自分の死に関しては…。しかし、他人の死はどうだろう。もし、それを厭うたら、それは戒律を破った事になるのだろうか。 …自分は神への誓約を忽諸(こっしょ)したのだ。いまの苦しみは当然の罰だ。この痛みは自分の罪の証だ。…だから謹んで受け入れよう…薄れ行く意識の中で彼はそう誓った。
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