6−5

  自分の部屋に入るとイウギは木の板で囲われた小さな寝床に入った。つぎはぎだらけの粗末な布団の上に座してこのところの旅を反芻していた。
 オリアタの街を出て、晩秋の街道を行き、幾多の村をめぐってきた。通り過ぎてきた村々は、西へ行くほど貧しく、人の数はまばらになっていった。村人同士も言葉少なく無愛想で、まるでこの世に楽しいことなんてひとつもないかのようである。彼らはなんでこんなにいじけたように俯いているのだろうか。イウギにはそれがわからなかった。
 セルイにその理由を尋ねたところ、彼はこう言った。
「きっと冬が近くなって気分がふさぎがちになっているんでしょう。」
 この答えにイウギは納得していなかった。なぜなら冬こそが、彼の部族が一番待ち焦がれた季節だったからである。雪が降ると、村の人々は子供のように喜んでそれと戯れた。姉はイウギに教えてくれた。この季節が一番大気が澄み切っていて、心地がよいのだと。一年で穢れきった体を、皆この時季に浄化するのだと。
 穢れのない真っ白な雪の海を見ていると、そのような気分にもなってくる。平等に降り積もってまっ平らになった雪原を見るのが、彼は好きであった。雪が降り休んで、まっさらな空が現れるとき、陽の光は確かにすべてを見通していた。
 だからこのように落ち込む人々の気持ちがイウギにはわからなかった。こんなに喜ばしい季節が近づいているのに、顔を上げないなんて変だ。

 …それは彼が、いかに大事に育てられきたかの証だった。饑(ひだる)い、辛い思いをしたことなど彼にはついぞなかったのである。世の中の多くの人々はこの寒くてつらい季節を疎んじていた。特にこのような国境近くの辺鄙な村では、蓄えがないことは死活問題であった。この数年、国は凶作に喘いでいた。よい王があれば、治世が行き届いてこのようなこともないのだろうが、この国では長く帝王が不在であった。4年ほど前に、これぞと望まれた誉れ高い皇子がひとりいたが、国民(かれら)はそれを永遠に失った。それで国民は長いこと悲嘆の底で泥を食むような生活を強いられていたのだ。

 そんな事情(コト)など知る由もないイウギは、無邪気に雪の降るのを楽しみにした。寒さが増して、大気に淀みが減ってくると、彼の気質もまた上向いていった。
 窓辺に寄って、外を眺めると、真っ暗な闇夜の中に形のよい星が数点見つけられた。あの星座はなんと言っただろう。二つの杯を逆さにつけたようなあの星は・・・


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