6−3

 街道を2・3qも歩くと村に着いた。閑散として人気のない村で、村人達に会ってもどこか卑屈な顔をして通り過ぎていく。だがもう、そんなことで少年は気を悪くしたりはしなかった。これまで通って来た村は、皆そうであったからだ。
「今日は何処に泊まろうか。やっぱりここにも宿屋はないんだろうな。」
きょろきょろと辺りを見回しながらイウギが言った。オリアタの街を出て以来、彼らはまともな宿にありつけてはいなかった。街道沿いとはいえ、元々小さな村落である。この時節に宿を開いている家はまれであった。
「そうですね…またどこかの廃屋を借りて泊めてもらいましょうか。」
 この辺りは宿がない代わりに、廃屋だけはいっぱいあった。だから民家に頼んでも宿が得られなかった場合、彼らは隣人に断って家主のいなくなった寂しい住居に一晩の宿を借りていたのだ。勿論、手入れなどされておらず隙間風が吹いて床は埃だらけであったが、野宿をするよりは幾分ましであった。
 幸い、この日は独り身の老婆が二人を迎え入れてくれた。身の上の理由から、普段は部外者には用心深くなる彼女も子供(イウギ)を連れていたことによって、大部心が和んだようである。今はいない家族の部屋を空けてくれ、かいがいしく食事まで用意してくれた。
「まぁまぁ、この季節二人だけで旅なんて大変だったでしょう。温かいスープを作ったんで、たんと食べておくれ。」
 二人にとって、久しぶりの暖かい食べ物であった。イウギは、老婆の顔をしばらく珍しげに眺めたあと、野菜のゴロゴロはいった赤いスープを口に運んだ。
「一体どちらからきなされた?何をしにここまで?」
たるんだ瞼で細くなった目を更に細めて、彼女は笑って尋ねた。
「…私は東の海から舟に乗ってやってきました。世界をひとしきり廻ってきたので、そろそろ故郷に戻ろうかと。この子は肉親を捜しているんです。」
セルイは、あまりスープに手をつけずに彼女の質問に答えている。彼女は二人を交互に見ながら小刻みに頷いていった。
「そうかいそうかい、故郷には戻らなきゃいけないよ。家族に元気な顔を見せてくれなきゃねぇ、待ってる方は心配で心配で仕方がないよ。」
彼女の表情はまるで変わらなかたったが、声には寂しそうな色が混じっていた。セルイの方も複雑な顔をしている。
「ボク、旅は辛いかい?こんな子供なのにねぇ。」
老婆の言葉にイウギは首を横に振った。口に出しはしなかったが、心中そっと思っていたのだ。
(だってセルイがいるし…)
 彼女はまた数回小さく頷いてから言葉を続けた。
「アタシにも孫がいるんだが、出稼ぎにいっているよ。手紙は時々よこすから元気にはしているんだろうけど…」
そういうと、彼女は遙かな空に想いを馳せるように、天井に向かって目を細めた。
「…会いたい?」
イウギがそっと聞くと、彼女ははまじめな顔をして言葉を強めた。
「ああ、会いたいねぇ。」


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