6−1

 街を出て四日がたった頃だった。セルイの様子が急変した。

 二人はエラル山脈の尾根に並行するような形で、西へ西へと街道を進んでいた。森の木々は常緑の針葉樹を残して、その身にまとう葉という葉を落としている。空は曇って灰色の陰鬱な表情を浮かべることが多くなっていた。もうすぐ雪が近い。
 イウギは青年の足手まといにならぬようよくよく歩いた。青年は青年で、少年の足に合わせて街道を歩くといった調子であった。
 街道といっても、この季節に人通りはない。荷物を積んだ馬車が日に一遍、近くを通るくらいだ。これに出くわしたときは、二人はここぞとばかりにこれに乗せてもらった。だいたいが隣村から隣村への短い距離だが、これのおかげでずいぶん楽をさせてもらった。
「雪が降る前に、この街道を抜けられたらいいんですけど…」
道中、青年がぽそりと言った。
 エラル山脈の周辺は方角によって積雪量がずいぶん違う。北西の海から湿った冷たい風が吹いてくるため、山脈の向こう側、北側がもっとも雪がひどく、東側より西側のほうが雪が降るのが早かった。セルイは雪が降り積もって街道が閉鎖される前に、山を下りるつもりだったらしい。オリアタの街で思わぬ道草を食ってしまったため、その時期が目前に迫っていたのだ。
 彼はそのあたりの事情をまったく気取らせなかったため、イウギは彼の焦りに気づきはしなかった。ただ、街道がとても広々とした砂利道であること、辺りがまったく静かなこと、憂鬱な曇天(そら)に風が湿っぽいことなどに驚いていた。行く道は両側に林を控え、近くには岩肌が露出した赤い岸壁(ガケ)、遠くにはすでに雪の積もった山脈が頭を覗かせている。歩いても歩いても同じ風景のようであるし、しかし徐々に違う世界になってきている気もする。胸の辺りが暖かくなってうきうきすることもあれば、ちょっと飽いて、ただただ歩くときもあった。そんなときになると、青年は決まって「疲れましたか?」と聞いたあとに、林に寄って休憩を取るのである。
 近くの木切れを集めて湯を沸かし、町で買い置いた枯葉のようなものを取り出して湯の中に入れると、えもいわれぬ香りの立つ飲み物になった。彼は水と葉をきっちり量り、無駄のないように茶を入れる。イウギのカップには少量の蜂蜜を入れてくれるのが常であった。イウギはこのひと時がとても好きであったし、周囲の景色も一段と違って見えた。

 セルイが袋の中から瓶を取り出しイウギに差し出した。
「一つ食べますか?」
それは砂糖菓子であったが、イウギは前にも一つ食べていたので首を振った。
「今はいい…セルイが食べたらどう?」
「私も今は食べられないのでいいです。じゃぁ、これは仕舞いますね。」
そういって彼は言ったとおりの所作をした。この時イウギは少し、彼に元気が無いように思われた。


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