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驚いて顔を上げると、子供が緊張した面もちでこちらの様子を見ていた。 (…そういうことだったのか…) このところ、とみに一生懸命働いていたのは。 正直、どう対応したものか、困惑していた。本当なら、こんなお金受け取れない。しかし、これはこの子の気持ちである。このまま突き返したら、気持ちを拒否したことになるだろう。セルイは笑顔を浮かべた。 「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます。」 その言葉を聞いて、イウギもほっとしたようである。肩から力が抜けた。 その様子を見て、セルイが言葉を続けた。 「明日はもう、お仕事ありませんよね。街へ出てみませんか。」 イウギはきょとんとしていた。
翌日もよく晴れた。澄み切った空には雲一つない。一緒のテーブルで朝食をとった二人は、そろって表へ出た。 町の南側の大通りでは路上で市場が開かれていた。道端に並べられた様々の品物は、どれもその土地特有の造形を備えている。 イウギは、セルイのアイボリーの後ろについて、影から珍しそうにその品々を眺めていた。 「どれか、お気に召した物があれば手に取って見てみてはどうですか?」 セルイにそういわれたものの、イウギはどれをとっていいやら分からない。ただただ、見たこともない物に目を奪われるばかりだ。それに、今日は人手も多かった。金や茶や黒やいろいろの髪の人、いろいろな体格・歳の人でごった返していた。 (…そういえば、イウギさんの村では同じ背格好の歳の人しか見かけなかったな…) ふと思い出して、イウギの方を見る。村では子供も老人も、見かけなかった。今訊くことではないが、同じ髪、同じ肌、同じような顔の中で育ってきたのだ。使いで外へ出たことがあるとはいえ、この様に多くの人をいっぺんに見るのは初めてだろう。セルイはイウギの困惑ぶりを察した。 「服でも見に行きましょうか。」 ね、といったとき、イウギはその大きな瞳を見開いて、無言のまま頷いた。
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