5−6

 その言葉を聞いて、イウギは目を丸くした。だって、そんな…。
「…そこまで、セルイに迷惑かけるわけにはいかないよ…。だって、どこにいるのか、生きているのかも分からない者を探すんだよ。アンタだって自分の旅があるんだろう。俺なんかにかまってちゃいけないよ…。」
そういいながらも、少年の声は涙で震えていた。あふれそうになる涙をこらえて、青年の顔を見つめ返す。
 本当はすごく嬉しかった。不安でたまらなかった。だから、青年の笑顔がすごく眩しかった。今はただ、彼の手に包まれた右手が温かい…。
 青年はゆっくりと首を横に振る。
「いいんです。私の旅は、特に目的地があるってものでもないですし。各地の村や町を巡りますから、人を捜すのなら却って都合がいいかも知れない。」
ね、といって彼は笑った。
 イウギは言葉を継げなかった。彼の優しさに、嬉しくって、申し訳なくって、声を出すことも出来ない。肩を固くして、ぐっと膝をつかむ。嗚咽と涙をこらえるのに精一杯だった。
 そんな様子の少年を、青年は優しく見つめていた。
しばらくしてから、少年は消え入りそうな小さな声でこういった。

 …ありがとう。


 それからの少年はますます働き者であった。不安が払拭されて、やることがはっきり見えてきたからであろう。セルイは心配そうだったが、体はもうすっかり元気だ。包帯もとれた。最初は遠慮がちだったおかみさんも、今はすっかり信用して、外へのお使いにも使ってくれる。ちょっとしたご祝儀もあり、1週間もすると、イウギの懐は結構な額になっていた。
 ある日の夕刻、イウギが仕事を終えて部屋に戻ると、赤く柔らかな空気の中でセルイが待っていた。
「おかえりなさい。お仕事ご苦労様です。」
「うん…。」
イウギは何か照れくさくって鼻を掻いた。今日は、特別にある用意をしてきたのだ。
 つと、セルイの前に立つと、ぱんぱんに張った小さな革袋を差し出す。
 セルイは事情が飲み込めなくて、不思議そうな顔をした。
「なんです?これは…」
受け取った小さな包みを開くと、そこにはコインがぎっしり詰まっていた。



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