5ー3

 寝入ったときと同様に、セルイは不意に目を覚ました。
 辺りはもうすっかり朝で、白い霧が空気をいっそう冷たくしている。
「しまった…途中で眠ってしまった…」
自分には珍しく、随分疲れていたようだ。普段ならこんな失態は冒さない。
 冷たくなった腕をさすりながら、周りを見ると、隣にいるはずのあの子の姿がなかった。寝台は空になっていた。

 あわてて階段を駆け降りると、食堂でおかみさんがテーブルの準備をしていた。セルイの姿を見つけると、親しそうな笑顔を浮かべ、話しかけてくる。
「おや、おはよう。夕べはよく眠れたかい。湖の精に祟られたんじゃないかって心配したよ。疲れ切った顔して帰ってきたからさぁ。今、朝食出来るからね。」
「…あの、おかみさん!あの子、どこに行ったか知りませんか!?」
 セルイのこのあわてようとは正反対に、彼女はのんびりとした口調で答えた。
「ああ、あの子なら、朝早く起きてきて何か手伝うことはないかっていうからさぁ、裏の仕事を頼んだんだよ。子供はいいねぇ、元気で。」
セルイが蒼白になって勝手口を出ていったのは言うまでもない。事情を知らないおかみさんは、ぽかんと立つくしていた。

 いわれたとおりに外に出て、裏手に回ると、確かに小さな姿が認められた。古い井戸の前で水を汲んでいて、慣れた手つきで、すでに一杯汲み終わっているようだ。それでもその体に、その桶は大きすぎた。水の重みも加わって、イウギの腰が何度か浮いた。
 セルイは思わず手を伸ばして綱を抑えた。驚いた子供の手が止まる。
「おはようございます。朝早く精が出ますが、あまり無理をなさらないでくださいね」
彼のその言葉に子供は目を丸くして、神妙に頷いた。


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