4−8
二人は再び、あの崖淵で目を覚ました。辺りは、もう朝になっていた。 うつろな瞳でお互いの顔を見る。…夢を見ていたんだろうか。そのまま両者は視線を穴の方へ向ける。…夢じゃない。 この崖は…この穴は、彼女の墓だ。骸の残らない、空っぽな墓だ。 朝になったせいもあってか、穴の中の闇は以前よりぐっと薄らいでいた。天を見上げると、まだ月が残っている。ほっそりとした、今にも消え入りそうな晦の月だ。 「彼女は…私たちにこれを見せたかったんでしょうか…。この村の終わりを。」 沈んだ口調でセルイが問いかけると、イウギはくしゃみをするように涙を流し始めた。 …月は死者たちの魂でできていると詩人が言っていたっけ…。セルイはそんなことを思い浮かべながら、イウギの肩を抱いた。ここに、村はもう無い。イウギもそれは分かっているようだった。ただ、今は、死者を悼むためにこの涙を流させてくれ、といっているようであった。 セルイは少年の涙を抱き留めながら、遠く青い空を眺めていた。薄い、糸を流したような雲に乗って、月へと向かう魂を見たような気がした。もう、偽りの満月が出ることはないであろう。
日が天中高く昇り、紅葉がくっきりと見えるようになった頃、二人は大墓を出発した。もう、ここへくることはないであろう秋の死の谷をあとにして…。
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