4−5
再び広場に舞い戻ったセルイは広場の様子を一望した。祭りは佳境に入っており、舞い人は一斉に中央の塔へとひれ伏している。すると、その中を颯爽と歩く白い影があった。長身で、長めのヴェールを目深にかぶりり、顔を隠してはいるが、その所作で女性とわかる。枝を一降り、手に抱え、落ち着いた足取りでモニュメントの元へ向かうその姿は、神々しくさえあった。 白い影は、やがてその入り口へとさしかかると、白と黒の二つの塔を振り仰いだ。そして、手にした枝を高く掲げ、その先についた実を日にかざした。実は、手のひらに収まるほどの大きさで、枝の先に一粒ぶら下がっていた。しかし、どうもその実は作り物のようである。それから彼女は三度お辞儀して、暗がりの中へ入っていこうとしたのである。 しかし、セルイは見た。塔の下の、暗い室の中へ足を踏み入れる瞬間、彼女がこちらへ一瞥をくれるのを。彼女の視線は確かに自分を捉えていた。 ―もしかしたら!― 直感的な物を感じ、彼は広場へと飛び出していた。もとよりその行動に驚く者はいない。誰にも彼は見えていないのだから。そして、青年は広場中央のモニュメントの小さな室へと駆け込んでいった。白い影の跡を追って。
モニュメントの中は真っ暗であった。それに、外から見たときより中の方は格段に広い。入ってから随分経つのに、まだ壁に行き当たらない。白い影の姿も見失ってしまった。闇の中で、セルイは光明を捜して歩き続けた。 光もない、音もない世界に迷い込んだようだった。もとよりすべてが幻なら、恐れることはない。惑ったなら、自分の負けだ。闇の気配はどんどん強くなっていった。 やがて薄明かりのもれる、一枚の壁に突き当たった。煌々と漏れるその灯りは温かいオレンジ色、ろうそくの光だと分かる。セルイはそっと壁の方により、中の様子を確かめた。そこには、先ほどの白いヴェールを纏った女性が、毅然と床に座っていた。やはり、彼女には他にはない特別な雰囲気がある。気品とも威厳ともつかないそのオーラは、彼女がこの村の指導者であることを思わせた。セルイは思い切って壁の横を抜けた。彼女はこちらに顔を向ける。 (やはり・・・) とセルイは心中で思った。 「この幻を作っていたのは、あなたなんですね。何故私をここへ導いたのです。イウギさんはどこですか。」 彼女はじっとセルイの面差しを眺めていたが、悲しいとも嬉しいともつかない表情となって、目を伏せた。 さらに質問を重ねようとして、近寄ろうとしたそのとき、この部屋にもう一人別の存在がいることに気づいた。 その存在は、禍々しい破壊と欲望の衝動…すべてを飲み込まんとする野望に燃えていた。灰色のフードを目深に被り、猫背で、ずるりずるりと脚を引きずる音をたてて迫ってくる。その足取りは早くも遅くもない。フードの中は暗くて見えないが、混沌の闇が広がっているに違いなかった。 彼女は表情一つ変えずに言った。
「ついにここを見つけたのね。」
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