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 巨大な獣の集団を前にして、イウギは立ちすくんでいた。いや、獣のような特徴を持った、異形のものである。
 体長はどれも5メートル以上はあり、その本性は凶悪であった。盲目の竜や、一つ目の牛の頭をもった人身、四つの目に四つの頭を持ったオオカミと、虎のように太い牙と爪を持った馬などがそれぞれ好き勝手に暴れ、火を噴ている。
 敵をどうにかしようと男どもが立ち向い、無惨に散った跡はあった。黒い遺体が広場一帯を埋め尽くし、今は完全に無法となっている。恐怖で支配された広場で、一頭は家の軒をなぎ払い、一頭は人間を餌食にしていた。
 ただ、モニュメントの周りだけには薄い光の幕が張られ、怪物たちの攻撃を防いでいるようだ。女たちはその根元にしがみつき、逃げることもできず泣き叫んでいる。
 イウギは凍り付いてその光景を眺めていた。心臓だけが早鐘を撃っている。キーンと耳鳴りがし、自分がここに立っていることがウソのように思えた。
 獣たちはイウギの存在には気づかないようで、モニュメントに体当たりしたり、火を噴いたりしてそれを壊そうとしている。攻撃が加えられるたび、幕が強く光ってそれを拒んだ。女たちが悲鳴を上げる。
「…そうだ、姉さんは!?」
 女たちの悲鳴を聞いて、ふっと気づく。必死で意識を引き戻し、モニュメントの中へと目を凝らした。姉の姿はその中にはない。ほっとするとともに、再び急速な焦りが襲ってきた。
(あそこには、いない…ではどこに!?)
はっとして振り返ると、そこには半壊しているものの、屋敷といっていい白い館が未だ燃えずに残っていた。まさしく、姉の住む家である。
 まだ、間に合う…
そう思い直し、イウギはこわばる足を引きずって、屋敷の中へと入っていった。


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