4−2

 イウギは炎の中で目を覚ました。悪夢の再来だった。
家々はすさまじい音を立てて崩れてゆくし、人々の泣き叫ぶ声があちらこちらから聞こえる。
「ここは…これは…」
 目の前に突然現れた信じられない光景に、イウギはただただ立ちつくした。真っ暗な空が、赤々とした炎と一緒に踊り狂っている。地面に映る影は、四方からのばされる灯りで錯走していた。
 慈悲のない…凄惨なその光景にイウギの心に怒りと憎しみがこみあげてきた。
「ウソだ…。ウソだ、ウソだ、ウソだ!」
とっさに彼は耳をふさいで、頭を横に振る。
「こんなの…現実じゃない!誰か…誰かウソだといって!ウソだと…姉さん!」
自分でそう叫んで、はっと顔を上げる。そうだ、姉さんは?姉さんはここにいるの?
 あの時、炎を前にして立ちつくしていた自分に逃げろといってくれた声の持ち主は、きっと、この炎のどこかにいるに違いない。捜さなければ…。
 イウギは顔を上げ、唯一の肉親の姿を求めて走り出した。

 隅々まで知っているはずの村の内部は変わり果てていた。あちこちで炭と化した柱がもろくも崩れ去り、道を塞いでいた。通れる道を何とか捜そうと、あちこちを駆け回る。村の住民と何度もすれ違うが、声をかける暇もないまま皆、走り去ってゆく。
「ねぇ!姉さんの行方を知らない!?今どこにいるのか。ねぇ!!」
大声で声をかけるが、相手は逃げることに必死でちっとも答えてくれない。恐怖でその形相は変わり、煙で衣服や手足は真っ黒になっていた。イウギは村人を捕まえるのをあきらめ、一人で姉の家に向かった。彼女の家は広場の方にある。
 無事で…無事でいてくれ、一人になるのはもう厭なんだ!どうか、おいていかないで。ひとりに、一人にしないで…。
 両の目からは涙があふれていた。一粒の希望にすがるように、腕を懸命に振り、必死で走った。
 でも、心の隅では知っている…。もう間に合わないことを。彼女には二度と触れられないことを。
 ガラガラと音をたてて家屋が倒れる。火の粉がチラチラと天の上辺を焦がして消えた。次々と家が倒れる中、広場の中央にある、あのモニュメントだけは、まだ倒れていない。彼女の家はそのすぐ近くにあった。イウギは白と黒の、二つの塔目指して走り続ける。
あの角を…あの角を曲がれば彼女のウチだ。
 イウギは燃え残った家の角を曲がった。
曲がったところで悲鳴を上げた。広場には黒い、見たことも無い巨大な怪物が屯していた。


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