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 イウギが元いた場所に戻ると、たき火が焚かれていた。先程では気づかなかったが、灰の量を考えると一晩中くすぶっていたに違いない。しかし、今は火の番人の姿はない。訝りながら火に近寄ると、近くの繁みから音がした。
繁みを掻き分け姿を現したのはセルイであった。
「あ、イウギさん。もうお起きになっても大丈夫なんですか?」
手に小枝をわんさか抱え、服は膝からしたが泥まみれになっている。
「…何をしていたんだ?その格好…。」
イウギはちょっと躊躇いがちに聞いた。
「近くに火へくべる小枝がなくなってしまったので、採りに行っていました。それと、辺りの散策に…」
なんでもないような笑顔を返して、青年は火の近くの岩に腰を落ち着けた。
「今、朝ご飯にしますからね。」

 セルイの作った『朝御飯』とやらは、カチカチになってしまった昨日の残りのパンを割いて、ミルクを沸騰直前まで温めた鍋の中に入れ、仕上げに蜂蜜をかけたものだった。真っ白なミルクをいっぱいに吸った繊維はまるで真綿のようで、そのパンともミルクともつかない匂いは、蜜の甘さと相まって、冷えた心をほんのり包んだ。
 銀のコップに口をつけ、子供は火傷をしないようにゆっくり、少しずつそれを食べた。しかしその目線は、青年の足の裾に向けられていた。ただ枝を探しに行ったにしては、腑に落ちない泥の量だったからだ。
「どこまで枝を探しに行っていたんだ?」
青年は火に枝をくべる手を止めた。
「もしかして一晩中辺りを歩いていたんじゃないのか?」
返事はすぐには返ってこなかった。青年は素直に子供の言動に驚いているようだ。
「え、ええ…、実は湖をずっとめぐっていました。水縁を歩くだけではなく、坂の上まで登ったり降りたりして…」
青年は昨晩自分がたどった軌跡を、人差し指で空中に描いて見せた。
「何でそんな面倒なことを…。俺の村を探していたのか?だったら、もっと森の奧に行かないと…」
青年の言葉に、こんどはイウギがドキリとする番だった。
「いえ、私が一晩中見定めていたのは『月』です。」


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