3−4

 夜の湖畔。水面は真っ暗で、さざ波の音だけが聞こえる。
月は明るい。山肌をじんわりと照らしている。
 パチパチと小さく火がはねた。静かな湖岸で唯一動的な存在だ。木の枝をぽきりと折って、セルイは火の中に投げ入れた。
 イウギはここに来て熱を出してしまった。傷口から細菌が入ったか、もともと体が弱っていたかして容態が悪化したのだ。山野の冷気にあてられたのかもしれない。
今は、セルイのマントと二重にくるまって、太い木の根元で苦しそうに唸っている。
 セルイはまた、自分の行動を後悔し始めていた。
本来なら、まだ安静が必要であるのに、自分があちこち連れ回して悪化させたに違いなかった。
「もう少し回復してからお連れするんだった…」
随分前に化膿止めの薬と解熱剤を飲ませたが、効いているのかどうかわからない。静かな時間だけが過ぎてゆく…。
 ふと、セルイは辺りを見回した。周囲は完全に闇に包まれている。波の音だけがきっちり等間隔に伝わって、心の焦燥を解きほぐそうとしてくれた。天上はやたら明るかった。
青年はいつもの癖で空を仰いだ。ああ…確かに今夜は満月だ。中天に蒼く白く輝くソレは、まるで夜の空をその光で支配しているかのようであった。空が明るいのはその所為だ。一瞬納得しかけて、すぐに違和感に気づいた。おかしい。前回の満月からまだ2週間とたっていないはずである。なら今夜は、いよいよ新月に入ろうかという頃だろう。
 セルイは思わず腰を浮かせた。あの月は…あの月はなんだ!!


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