2−10
いざ事が決まると話は早かった。 セルイは街で、この辺りの地形と村落が載った地図を買ってきて、机の上に押し広げた。羊皮紙の、少々年代がかった物である。 見ると、崖と思われる斜線の入った太い帯が、不規則に東西を横断しており、街道はそれを避けるように並行して走っている。セルイはいくつかあるうちの、ひときわ大きな○を指さした。
「コレが今いる街、オリアタです。イウギさんの記憶にある大きな湖とは、おそらくこのトアダ湖のことでしょう。」 言って彼は地図の左上にある、大きな空白を指した。 イウギは黙って、地図の模様を見つめている。よほど珍しいのであろう。セルイはその様子をしばらく見て、また話を進める。
「ここまで行けば、あとはイウギさんの記憶をたどって森を進みましょう。半日もあれば村までたどり着けますよ。」 そういうと、彼はにこりと笑んだ。少年も、初めて地図から目を離し、顔を向ける。その表情は、泣いても笑ってもいない。 ――この人は知らない。自分の村がもう滅んだことを… 口を開いて、何か言いかけるが、言葉にならない。曇りのない、真っ青な瞳に見つめられて、少年は黙り込んでしまった。騙すようで、申し訳ない。でも、行かなきゃいけない。この目で確かめなきゃいけないんだ。村が一体どうなったのかを。そのためには、この人の力が要る…。 青年の方から、自分を家まで送るという言葉が出た時は、正直驚きであった。だがすぐに、自分が村までたどり着くには、誰かの助けが必要であると気づいた。自分には此処がどこだかも分からないのだ。今はただ、彼の言うとおりにしている事しか出来ることはない。 少年は再び地図へと視線を戻した。今まで自分の村を出たことの無かった彼にとって、こんなに近くに沢山の集落が存在したことは大きな驚きであった。この地図で言えば、彼の村は崖の向こう側にある。この、広大な森のどこかに、自分の村は存在していた…。少年は地図にはない自分の村を指でなぞった。
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