2−3
日がすっかり暮れたころ、セルイが部屋に戻ってきた。柔和な笑顔をうかべ、先程の問答も苦にしていない様子で食事の算段を話す。
「おかみさんがご飯を用意してくれるそうです。病み上がりなので、軟らかいモノをお願いしました。階下で食べた方がおいしいんですが、ここに運んでもらった方が良いでしょうか。 …イウギさん?」
暗がりの中、うなだれる子供の顔をのぞき込む。涙はなかったが、目元は赤く腫れていた。 …それでも子供は、何でもない、といった。セルイもそれ以上聞かなかった。
イウギか階下で食べるというので、二人は食堂の隅の卓子についた。 出されたのは砕いた肉を菜の葉でまいて、軟らかく煮たモノと、穀物を炊いたスープだった。
イウギはぺろりとそれを平らげた。5日も何も食べていなかったことを思えば当然かもしれない。そう思って、青年はお代わりをするか聞いた。子供は頷いた。 次の皿もイウギは難なく平らげた。その次の皿も同様である。セルイは少々目を見張ったが、イウギがまだ食べたそうにしているのでその意に従った。 しばらくしておかみさんが、鍋ごと持ってきた。子供の食欲はとどまるところをしらない。注いでも注いでも空にして行く。ものすごい早さだった。…ここに来て、ようやくセルイは異常に気づいた。
「…イウギさん。もうそろそろ、このへんで。」
イウギは静かに頷く。嬉しそうな笑顔のおかみさんに礼を言って、二人はそろそろと階段を上った。
「イウギさん、お薬を飲んだ方がいいですよ。」
部屋に戻ってから、セルイが手持ちの薬を引っ張り出してきた。先程病院で仕入れておいた旅用の簡易なモノである。 イウギは始終無言であった。喋る余裕がないのだ。 子供は明らかに食べ過ぎであった。空腹からではない。心因的なものである。それに気づけなかった自分に、セルイは内心、歯がみする。
イウギはあまり飲みたげではなかったが、無理にでも飲ませた。 「気分が悪くなったらすぐに言ってください。戻したくなったらここに。」 そういって、寝台の横の床にたらいを置いた。子供は、やはり無言で頷いた。
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