19−3

「猫を見たことなかったの?」
「見たことなかった訳じゃないけど・・・、触ったのは初めてで、ああ!コラ、上がるなよ、もう〜」
イウギが落ち着きを取り戻してから、2人は比較的小さな食卓を囲んだ。場所はテラスだ。今日も朝から天気が良く、程良い風も吹いている。
 イウギが食べようとする皿の中身に、興味津々、食欲旺盛なこの白い猫は、すぐに食卓の上に土足で上がろうとする。イウギはそれを押さえつけるのに必至で、正直自分の食事どころではない。
「その猫は、叔母様の所で生まれたのを里子にもらったのだけれども、放し飼いにしていたらいつの間にか行方不明になっていたのよね。所定の場所に餌箱を置いておいたら食べていくから、生きていることはわかってたんだけど」
目の前の状況を、まったく鑑みる様子もなく、黙々と彼女は叉匙を進める。
「貴方のことが気に入ったみたい。ずいぶん懐いてるわね」
「懐いているって、いうのか?これ…食事の邪魔されているようにしか、思えないんだけど」
ぼさぼさの長い毛と散々格闘して、イウギは猫を床下へと追いやることができた。
「ふ〜・・・」
「ごちそうさま。アラ、半分も食べてないわねぇ?」
「その半分は、猫の腹の中だけどな!」
この言葉に、彼女はころころと笑い声を立てる。
「そうねぇ・・・、さて、これからどうしましょうか?私はこれからまた、親族の相手をしなければならないの、貴方は…」
そういわれて、イウギは押し黙って下を向く。また、この部屋で待っていなくてはならないのだろうか、それは…。
「あの人に会いたい?」
その軽やかな声に、子供は顔を上げる。
「えっ・・・?」
「向こうも大分回復したみたいだし、もう会っても大丈夫かなぁ…って」
「会ったのか!?セルイに!?」
「ええ、そうね。話はしたわ」
「会いたい!俺も!あっ、でも…」
「何?」
「セルイに何か言われた?・・・俺のこと」
「いいえ?そこまでは話が及ばなかったわね」
「そう…。」
一番の不安が解消して、イウギはホッとした。あとは…、セルイ本人にあって確かめればいいことだ。
 そんな様子を、彼女は静かに見ていたが
「…あなた達って…」
「エレナはセルイのこと、どう思ってるんだ?」
「え?」
いきなり核心をつかれたようで、ぎょっとする。
「前からの知り合いじゃなかったのか?なのに、俺ばっかりがこっち側にいていいのかな?って…」
「ああ、そういうこと…いいのよ、そのほうが。今はね。そういうこともあるって事よ」
「そうなんだ…。なんか、全然会わせてくれないし、もしかしてエレナはセルイのこと嫌いなのかなって…」
「嫌いだわね」
この言葉に、今度はイウギがぎょっとする。
「嫌いだわね…あんな人…」
そういって、彼女は悲しそうな目で遠くを見た。


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