19−1
ああ、つまらない。
あんな事を言いに、わざわざ時間を設けた訳じゃなかったのに。
あの人の口から漏れる言葉が、あんまりにもつまらないものばかりだから、こちらもつまらないことをいってしまったわ。
いつから、あんなに脆弱に、卑小になってしまったんでしょう。これなら、あの時決意した自分が馬鹿みたいじゃない。ああ、つまらない。おもしろくない。
・・・・・・ほんとうに、最後の最後までつまらないことしかいえないのね。
春の朝、まどろみの中から目を覚ますと、ひじをついた窓辺はすでに白い光に照らされていて、不愉快な目覚めの視界を刺激する。 長いこと就きすぎてこわばった右肘の底をさすりながら、彼女はあたりの様子を見回した。薄暗い、寝台の中は夕方にしつらえた形そのままになっている。 (やだわ…、考えながら寝ちゃたのかしら。) こんなんじゃ、すぐに老けちゃうー!、と思いながら彼女はのびをした。気持ちを切り替えねば。しなければならないことはまだ、何一つ解決していないのだから
。その時、
コンコンコン…
「お嬢様、ちょっといいですか。お嬢様のお客様が・・・」
エレナと大して変わらない状況で目を覚ましたイウギは、せっかくの山積みの布団も無意味に、丸々その上で目覚めた。薄着が徒となったか、手足が冷え切っている。のどは痛まないものの、額のあたりに熱が集まり、視界も意識もぼーっとしていた。 「もう…朝…?」 くらくらとしながらも、地面に足を着こうと、その小さな足を伸ばすと、床に触れるか触れないかというところで、ふくらばぎに何ともいえない感覚が触れて過ぎ去っていった。 「ひゃっ!?」 なんだ・・・?恐る恐る、床の下を覗き込むがなにも居ない…。いや、寝台の下に潜り込んでいるのかも知れない。 にわかに、背筋か凍り付いた。な、何か居るんだ…!なにか、得体の知れないものが、床の上を・・・。 イウギは、慌てて両膝を寝台の上に引き上げた。 (どうしよう、どうしよう、どうしよう……コワイ!) 寝覚めたばかりの頭なので混乱の度合いはますます増える。 (あ、足を掴まれるんじゃないか…?)とか(床の上を引きずられるんじゃないか…?)とか (また、食べられるんじゃないか?)とか。 今まで尋常でない経験をしてきたのが徒となって、イウギは寝台の上で動けなくなってしまった。
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