18−10
はあ・・・。 黄金の細かな刺繍がどこまでも連なる、もっさりと積まれた布の上に足の先まで投げだしたイウギは天蓋に向かって息を吐いた。 「どうしたら・・・俺、」 額に当てた両の拳が熱い。長いこと、ずっとそうしていたため熱がこもっているのだ。 だがそんなことを気にしている余裕は、少年にはなかった。少年は、自分が今ひどく無意味な存在に思えてならなかった。無意味どころが邪魔なのではないか? 今までだって、孤独に夜を過ごす事がなかったわけじゃない。そういうことが、問題なんじゃない。自分の・・・手の届かないところで事態が動いているのが…、いや、動いているのかすらわからないことがもどかしく、彼の胸に空虚な穴を残すのだ。 「エレナは…。……。」 イウギは彼女のことを“エレナ”と呼んだ。そう呼ぶことは、彼女にも許されていることだ。少なくとも人前以外では。 エレナは…、セルイと知り合いなのか? 彼女が自分を青年に会わせないようにしていることは、薄々気づいていた。だが、その理由がわからない。もし、知り合いなら何故、彼ではなく自分を、私室に招いたのか。てっきり、あとから青年もやってくるのだとばかり思っていたから、その気配が全くないことにとまどっているのだ。 …逆なら、まだわかるような気がするのに。自分は本来、彼女と面識すらない存在。ここにいていいはずないのに、いても、何ができるわけでもないのに。 「また…、一人になっちゃうのかな?」 このまま、引き離されて、青年との旅が途絶するのが…、今一番の不安といえばそうだ。この城に…、自分がいつまでもいていい謂われはないはずなのだ。 自分の知らぬないところで…、2人は逢っているのか?そこで、何か取り決めが行われているのか?例えば、あの…ヤナイの時みたいに。 「イヤだ。」 イウギは、一人でも強く否定した。右の拳が一段と握られる。その手の中には紡錘型の、大きな半透明の水晶がある。イウギはふと気がついて、拳の力を解いた。 「ごめん・・・、姉さん…。」 起きあがって、手の中の結晶を見る。昼間では気づかないわずかな燐光が、この中にもある。それは、緑だったり、青だったり、黄色だったり、時には紫だったりして、少年の心を慰める。ずっと、手の中に握られていたために、今は…温かい。 「俺、ダメだなこのままじゃ。明日ちゃんとエレナに訊こう。セルイのことも、俺自身をどうしたいのかも、」
寝台の端に腰掛け直して、少年は青白い窓の外を見た。月が出て、窓辺のさんを白く照らしている。山端の上に、細かな星々が散っている。 「セルイにも訊かなきゃ…、エレナと何があったのか。そのためにも、きっとまた会わなきゃ、」 少年の手の中で、光は再び強く握られた。
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