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「…エリー!エリー!」 戸口の所で“彼”の様子について聞き、内奥へと向かう彼女の後ろを小太りの紳士がついてきた。 この城の中で、彼女を“エリー”と呼ぶのは一人しかいない。 「やめてお父様!もう子供じゃないんだから」 「どうしてパーティを途中で抜け出したりするんだい。 お客様に失礼だろう」 「あら、ご挨拶は一通りお受けしたわ」 「それは儀礼だろう、本番はこれからなのに…」 「な・に・が、本番なのかしら!」 前進していた彼女の体がくるりと向き却って、相手をにらみつけた。といっても、彼女の父親は大分矮躯なので、見据える形になるのだが。 「お父様、親睦会を理由にしたお見合いはも〜〜う、たくさんなの!私は今、一生の伴侶を決める気なんてないし、そんなモノに構っている暇もありませんから!」 「そんなこといわないで、エリー。今を逃したら、婚期はどんどん難しくなるよ?やっと、皇太子殿下の教育係が明けたというのに…」 彼女は溜め息一つだけで、これには応じない。 「この間だって、ヒルドのヨルダン卿のお話をむげに断ってしまうし…、伯爵家と言ったって、あそこは軍部に精通していて、軍備の貧弱な我が国にとってはまたとない縁談だったのに…」 「その、軍事力が脅威となって、領地を乗っ取られるとは思わないの?!公爵家の名にあぐらをかいてたら痛い目を見るんだから」 「わかっているよ〜だからこうして、いい相手を捜しているんじゃないか。元皇太子殿下の婚約者だった君だから、かえって縁談が難しいんだよ。ああ…今の皇帝陛下と君が結ばれれば、何の問題もなかったのに…」 エレナーグの眉がぴくりと上がった。 「それはないでしょ、年が離れすぎているもの。」 「離れているといっても、4・5歳じゃないか・・・」 「女(わたし)の方が上だったら意味がないでしょ!逆ならまだしも」 彼女はぷんと、向き直って、また前進し始める。 国内の良質な小麦でぷくぷくと肥え太った、この国の国主は必至で追いかけるが、ついには引き離されてしまった。
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