18−5 

彼女が言った、《手伝ってほしいこと》というのは、畢竟、イウギが部屋でおとなしくしていることだった。
 広い窓辺の傍らで、用意されたお茶やら焼き菓子やらと一緒に、少年は座り込んで外をぼんやりと見ていた。尤も、今のこの彼の姿を見て、少年と思うものはほとんどいまい。
 彼女の言葉と表情は、自分にとってかけがえのないものの存在に似ていた。初めは気づかなかったが、何度となく接するウチに
《ああ…、そうなんだ…》と思うことができた。
 『強かった』『優しかった』『悲しそうだった』それらの要素が、彼女にもある。彼女が何を思い、自分をここに留めているのかはわからなかったが、ごねて逆らう気持ちも起きなかった。
 それでも、気がかりなのは、旅の同行者のことだ。
(セルイ…どこへいったんだろう。大丈夫なんだろうか)
彼女が《待て》というから、待っているのだ。でなければ、とっくに探しに行っている。

…ザワザワザワ…

 彼女の言葉通り、外の様子が騒がしくなった。
 門中の広場には次々と馬車がつけられ、高貴な身なりの婦人や男性が降りて来る。城の中の様子も、慌ただしくなってきた。
 たしかに、こんな所を自分がうろちょろしているのは邪魔だし、目障りだろう。だいたいが、場違いにすぎる。自分はただの、旅の孤児(みなしご)だ。本来なら、このような城に入れるはずがない。
 ・・・やはり、すべては、彼女の考え一つに治まっている。それを明かしてくれるのが、いつなのか・・・・・・。自分は待つしか術がない。

 ややあって、城の裏手の方が騒がしくなった。さざめきが起こり、人の笑い声がする。ーイウギにとっては耳慣れないー管楽器や弦楽器の演奏が始まったのだ。  イウギは一人、その変わった旋律に耳を澄ませ、思い思いの歌詞を歌い紡ぐのだった・・・。


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