18−4 

「あらぁ、キレイになったじゃない。」
 湯船のせいばかりで、上気した訳でもないイウギを迎えたエレナは満足そうだった。
「な、イヤなんだけど、知らない人に体を洗われるのって…。それに、この服…。」
「うん?とっても、似合ってると思うけど」
「ヒラヒラしてて、女みたいだ」
「だって、女の子の服だもの」
「!?」
「正確には、私のお下がりだけれども」
いって、彼女は机の上に置かれた櫛を取り、イウギの髪を撫で梳(す)いた。
「じゃあ、髪の毛を、他人に梳(とか)かされるのは?」
「・・・それは、別に…」
「好き?」
「うん…、なつかしい」
2人は窓辺の長椅子にともに座って、同方向を見ている。
 イウギは髪を梳かれる音を聞くうち、心も解きほぐされるように穏やかとなって、ゆっくりと、目を閉じる。頭皮に残る櫛の感触、耳に触れる柔らかな指の温かさ。目蓋に映る、もう遠い平和…
 結局、エレナ嬢に為されるがままにしていたイウギは、彼女の腕の中で眠ってしまった。
「あらあら」
(かわいいものね…子供なんて)
すっかり艶を取り戻した、渋栗色の髪を手で撫でてから、彼女は侍女に、ゆっくり子供を客間の寝室へ運ぶよう命じた。
 そして、手にした櫛を許の場所に置いてから、自分も自室の寝台へと入っていった。


 翌朝になって、イウギは再びおののいた。
 ふっかふかの、布の山のような寝台の上で目を覚ましたからだ。
「うっわぁ、ここどこ!?」
ええ〜と、自分は旅をしていて、セルイが馬に落っこった人を助けて、それからあれよあれよという間に、城へつれてこられて・・・・・・。
 寝入っちゃったんだ!?セルイに会う前に?
 イウギは慌てて寝台から下り、部屋の外へでようとする。
 すると、戸口の所で控えていた侍女に、抱え込まれるようにして止められた。
「おまちください。お着替えを!そのあとはお食事です。」
「でも!セルイに会わないと!」
「お食事を終えてからです!そうしたら、エレナ様がお会いになられます。もちろん、お連れさまも、」
しばらくじたばたしていたイウギだが、その言葉で落ち着きを取り戻す。それ以上に、たしかにお腹が空いていたのだ。
 今までの経緯でいけば豪華すぎるほど豪華な朝食を終えてから、イウギはエレナに謁見することができた。
 彼女は、昨日の乗馬で着ていた服よりも、私室で着ていた服よりも、ずっと豪奢で格式張った衣装を着ていて、イウギの目を驚かせた。
「おはよう。昨日はよく眠れたようで、よかったわ」
イウギは顔を赤くする。
「それに、服もよく似合っているようだし」
「だから、なんで女物の服なんだよ!?」
「あら、いいじゃない。そのほうがずっとかわいいし、ウチは女の家系だから、子供の服は女物しかないのよねぇ〜」
コマッタワ、という風に、彼女は体を傾ける。イウギは諦めて、話の本題に入った。
「セルイは?今どこに?」
「彼なら、別室で休んでいるわ。傷は、大したこと無かったみたい。でも、安静にしていてもらわないと、治るものも治らないから、」
それよりも、と彼女は言葉をつなげた。
「今日から、領内の人達が集まってパーティをするの。いつもの、くだらなーい、つまらなーい交流会よ。でもしばらく、人の出入りが激しいから、貴方も迷ったり、連れて行かれたりしないように、気をつけて。余り部屋を出ないでね?」
 イウギがとまどったような表情を浮かべているので、彼女も優しい表情をいささか曇らせて、真剣な声で言った。
「私にもうちょっと、時間を頂戴。今、いろいろなことが同時に起こっていて、一つ一つ片づけないといけないの。上手いこと、事が済むように、貴方にも手伝って欲しいのよ」
手袋越しに、彼女の体温が頬に伝わる。
 イウギは、しばし黙ってから、静かに頷いた。


前へ    次へ




女の子お絵かき掲示板ナスカiPhone修理