18−2
すっかり暮れかかった、赤紫色の夕闇、その下の原の茂みの中から、城門の方を窺う影があった。 大きな蝙蝠のようだが、羽とは別に手足がある。その毛むくじゃらの腕の中で光るのは、金色のくりぬかれた目玉であった。 「【どうだ…。お前の体を焼いたのは、あの中にいたか?】」 (へい、いました。白い馬に乗った、あの金色の奴です。) 「【そうか…、しかし、ここからだと迂闊に手はだせんな、でてくるのを待っても良いが…、協力者が必要だな】」 (へい、……でも誰を?) 「【それには、もう目星をつけてある】」 (ははぁ、さすがですな) 妙なことに、この生き物は口を開いてはいない。会話をしているのは、“ここに在らざる”者達のようである。 しばし城の周囲を探ったあと、この生き物は立ち去った様子であった。
“くつろいで”といわれて、半ば忠実にその言葉に従って、お菓子やお茶をほおばっていたイウギに思わぬ事態が起こった。というか 「え!?」 「湯船を用意させたから、浸かってらっしゃい。着替えはこちらで用意したわ」 もうすでに、自分は着替えを済ませたらしい彼女が、再び部屋に戻ってきてイウギに言った言葉はこうだった。 「申し訳ないけど、その格好で城の中を歩かせるわけにも行かないの。私は構わないんだけど、何かと形式にうるさい者が、この城には多いから。それに、もう何日も入っていないんでしょ、お風呂。」
事実その通りだった。旅の身の上、着替えもままならないし、このところは野宿も続いていたので宿にもろくに泊まっていない。 「そうだけど・・・昨日は森の中で寝たし…」 「まあ!野宿?こんな小さな子をつれて、これだからしょうもないのよね、男の人は」 「えっ、ううん、平気だよ!?狩りの時は野営もしたし、落ち葉の上で寝るのなんて初めてじゃないし」 ようやっと、青年が自分への気遣いを解いてくれた証でもあるのだから。 もじもじしているイウギに、エレナは溜め息一つ、微笑を一つ、ついて子供を立たせた。 「わかったから、とにかく行ってらっしゃい。私の侍女を2人つけるから」 「えぇえ!?」 狼狽えて、振り向き振り向きする子供が連れて行かれるのを見送りながら、彼女は表情を固くしていった。 青紫色へと変わる弓月の空を見上げて、「さぁて、このあと、どうしましょうか…」と呟いたのだった。
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