18−1
専用の馬場で、2人は馬を下りた。馬は馬係に引かれて、裏庭へ。常駐の兵士達が石畳で槍の柄をならして、主の帰りを城内に知らせる。 すぐさま、たくさんの女性達が現れて、2人は取り囲まれた。 「姫様お帰りなさいませ」 「姫様、お衣装を・・・あら、こちらは?」 「私の客人よ。あとからもう一人来るから、丁重にもてなして。その方の部屋を用意しなさい。あと、足に怪我を召されているから、医者も呼んで頂戴。貴方は、私と室(へや)にいらっしゃい」 あいかわらず、おどおどと所在なげなイウギに手を差し出し、彼女は城の中へと誘った。 外側は、灰色の岩壁で覆われた堅牢な城だが、中は白亜の大理石でなめらかに整えられ、調度品は見たこともないほど豪奢である。 もっとも、彼女の階級(クラス)でいえば、これでも質素な方なのだが・・・ 手を引かれて、奥へ奥へと誘われるイウギは、方々を見回しては感嘆の息を絶やさなかった。 「さあ、ここが私の私室(へや)よ。」 何回か階段を上り下りして、角を曲り、また前進し、廊下の端からいって中央に当たる大扉の前で彼女は振り返った。 「かまわないから、くつろいで頂戴。お連れさんが着くまでには、もうちょっとかかるから」 いって、開いた扉の向こうは明るげな窓の並ぶ横に長い部屋だった。窓辺にはそれに見合った長さの長椅子が延びて、可愛らしいクッションやらレースやらで飾られている。広い割には、居心地が良さそうな内装である。 彼女はさっさと奥の部屋へ行って、侍女に指示を与えだした。イウギは窓辺の外をのぞいた。すると、今しも、旅をともにしてきた御仁が門の下をくぐるところだった。 その姿を見て、少年は安堵した。
門をくぐりながら、セルイはこの城の巌のような岩壁をながめた。 (かわらないな・・・ここは) ふいに、懐かしさのようなものがわずかに湧いた。懐かしいと言っても、この城を訪れるのはこれで2度目だ。 女性とイウギが下りた下馬所とは違って、セルイは従者達が乗り降りする裏庭で馬を下ろされた。 屈強な男達に両腕を支えられて、半ば引きずられるようである。すぐさま、城の中から一人の侍女が現れて、こちらへ走り寄ってきた。 「エレ様のお客様ですね。どうぞこちらへ」 「あの…、イウギさん達は」 「中でお待ちです。その前におみ足の手当を、さ、こちらです」 侍女はすぐさま城の中へ引き返してゆく。 あいかわらず、足は上手く動かない。それどころか、久しぶりに馬などに乗ったせいで、両足とも却ってこわばってしまったようだ。セルイは、両脇の男達の顔を見た。 彼らは終始無言で、余計な私語ははさまない。その生真面目さが、彼女の信用を得ているのだろうとセルイは思った。 畢竟、青年は、その用意された部屋にたどり着くまで、気まずい従者にはさまれて半ば引きずられてゆくのだった。
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