17−5

 翌日の朝、彼は朗らかな顔で食卓に就いた。
 その表情の変化に、イウギは目を丸くしたが、敢えて何があったのかを問うような真似はしなかった。
だが、彼は言った。
「南へ」
「このまま、南へ向かいましょう。約束ができたんです。」
とても晴れやかな笑顔で、こういった。
 子どもは、ますます目を丸くして、手にしたパンを口へ運ぶのも忘れた。
 一体、この変わり様はどうしたことだろう。約束とは、一体、誰と、いつしたのだろう?自分の知る限り、青年は宿を一歩も出ていないし、彼を訪ねてきた人も見ていない。話をした相手は、この宿の者だけだが、それでも、南の地に交わす約束などあるとも思えないのだが。
「やくそく・・・誰と?」
おそるおそる尋ねる子どもと対照的に、彼は屈託のない表情を崩さない。
「古い・・・昔の友人です。彼なら、何かと教えてくれるでしょう。とても聡明な方ですから」
「そうなんだ・・・」
疑問が疑問とならない、なにがわからないのか、わからないままに、少年はその日の朝餉を終えた。

 それ以降は、青年は以前と変わりがないような朗らかさで街道を南下していった。今までの、不安な足取りが嘘のように、堂々として街を過ぎ、国の領線を越えていった。
 平野の草原も、雪の合間から見え隠れし、旅人の陽気と呼応するように白い結晶は、だんだんとその姿を減らしていった・・・。
 イウギは、その年の冬と別れを告げた。
今はただ、この森の温かい落ち穂の上で、ゆっくりと疲れた体を横たえている。
 その傍らでは、不思議な旅人が火の番をして暖を絶やさないでいる。小さな星々は、ゆっくりと藍色の空を回って落ちてゆく。
 子どもは夢を見た。とても浅い夢だが、楽しげなメロディを聴いた。
 そして、それとあわせて、あの、図書館で見たドルイッドの文書を口ずさむのであった。


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