17−2

 手にしていた木の枝を取りこぼす感覚で、はっ、と彼は目覚めた。
 番をしていた火は未だに強く燃えているから、うたた寝していたとしてもひどく短い間だ。
 隣人は、穏やかな顔をして外套の中で寝返りを打つ。もうすっかり、野宿も平気になった季節だった。
 青年は星を見上げる。暖気と寒気が入り交じって、星は少し見えにくくなっているようだったが、相変わらずやさしい光を与えていた。
 新しい季節。新しい歳の到来。過酷な冬も、過ぎてしまえば何のことはない、遙かな夢のようなものだ。
 この旅も…今年で終わるだろう。

 静かな予感。それとともによぎる不安。
自分は自分の信じた道を進めばよいのだ。それは分かっているのだが…。これは本当に自分が信じた道だったろうか…?思わぬ事もないこのごろなのだ。
 寝息を立てる小さな隣人…。この子の家族を探すという約束も、今や困難な状況にある。
 すべてはあの、ケレナの街で始まった。


 国立館に所蔵される通行書発行の履歴をたどる作業も一段落し、館長にお礼を言って、宿に戻る途中で、彼はそれと、出会ってしまった。
 それは、地方巡見を終えて街に帰還してきた兵団員の主力部隊であった。立派な隊列を乱すことなく、中央部へ向かう兵団を、セルイはやり過ごす形でそっと見ていた。その中には知った顔も幾人かいたが…。
 彼は早足で、裏路地を通って宿へ帰り、イウギに明日か明後日にはこの街を出ることを告げた。
 子どもは、この急な決断に驚いたようだが…、逆らうような素振りは見せなかった。
 せっかく親しくなれた人や、場所から引き離すようで忍びなかったが、彼は内心そうとうに焦っていた。そして、その判断はおそらく正しかった。

 翌々日、彼はドキドキしながら通行書を見せ、西の門を通ってケール地方を西へ向かうように見せかけて、その実、大きく迂回して南のクリエム地方へ進路を取った。
 イウギはその事には気づかなかったようだが、昨日いっぱいでセツや、図書館の司書にお別れを言ってきた余韻に浸っているようだった。

「すみません、イウギさん・・・私の勝手で、セツさんと早くお別れすることになってしまって」
「ううん、いいんだ。俺はあいつが心配なだけだったから。今のセツなら、もう大丈夫。あいつ、笑っただろ。もう普通にさ。だから、いいんだ。」
「お優しいですね。イウギさんは」
「そうかな」
「はい」
それが…子どもの気遣いなのか、本心なのかはわからない。
しかし青年は、たしかに子どもの心象よりも自分の事情の方を優先したのだ。それがまた、彼に重くのしかかる。
 お互いに浮かない顔が数日続いたが、やがて元のように語り合うように、なることはなった。

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