16−15
荘厳な石造りの門を再びくぐると、セルイは今度は迷わず受付の一人へ声をかけた。 「すみません、出入国の管理記録を見たいのですが」 話しかけた相手は勿論、先日と同じ金縁の眼鏡をかけた丸顔の女性である。 相手は、書きかけの書類を慌てて片づけて、眼鏡のフレームを押し上げた。 「あ、はい、こんにちは。しゅ、出入国記録ですか?ちょ、ちょっとお待ちを・・・」 以前と何ら変わらぬ困惑ぶりを見せながら、彼女が奥に消えていった。おそらく、あの上司を連れてくるのだろう。人気のまばらな室内で、セルイは静かに待った。
「閲覧するのは構いませんが、どのような調査で?」 「ほとんど私的なことで申し訳ないのですが、人捜しです。ここ15年ほどの記録を見たいのですが」 「ははあ」 そういって、中年の男は閉ざされた部屋の扉を開いた。鍵穴に指された金の鍵輪がチャラチャラ鳴った。 「資料は持ち出さなければ、どれを見ても構いません。お書き写しになる場合は新たに申請書が必要ですが…」 「では、これを・・・」 そう言って青年が差し出したのは、かの騎士団員の証である短刀であった。この部屋を利用するための身分保証と、いったところか。 「はい、では閉館までには受付までお戻りになられるよう。よろしくお願いいたします。」 「ありがとうございます」 云って、男が去ってから、すぐさまセルイは書架に向かった。出入国の申請書と通過記録の束である。通過記録は誰が、いつこの城門を出入りしたかの情報で、その量は膨大であるが、それだけに内容は簡易な物だ。セルイが目指すのはこちらの資料ではない。 出入国用の手形を発行する際に作成される個人記録、要は申請書である。セルイ自身も、この間イウギと自分の手形を新規、更新するため、この類の書類に署名している。 こちらの方が数は絞られ、厳重に管理されているとはいえ、生半可な量でないことに変わりはない。 セルイは、十数年前の記録を年次順に取りだして閲覧用の机の上に置いた。ファイルを開くと、個人の名前、年齢、門地、父母の名前などが詳細に描かれている。中でも注視するところは、その者の髪や眼、身体的特徴が併記されていることだ。 青年は、年次と年齢、そして身体に関する記述を重点的に見ながら、驚くべき速さで書類を探索し始めた。 こういった作業(こと)をするのは何年ぶりだろう。昔とった杵柄とはいわないが、こんな技能が今更役に立つなんて。ふと、感傷に引き込まれそうになるのを、わざと放って置いて、青年は日の暮れるまで部屋に閉じこもった。
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