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 他所者である彼らなので、勿論図書館から本を借りることは許されないが、文字記号の表を簡略化したものを、セルイが手書きにしてイウギに渡してくれた。イウギは他の物事を忘れるほどに、その表に見入ってブツブツと呟きながら一つ一つの発音と意味を暗記していった。
 これほどまでに真剣に、子供が文字を覚えようとするのはセルイにとっては意外だったが、それなら「こうすると覚え易いですよ」といって、右手で文字の形をなぞる事を教えてみた。目で文字の形を頭に印象づけながら、その脇で、指でその記号をなぞって文字を書く、筆記の前段階も学ばせようというのだ。イウギがこの国の文字の音と形を覚えきるのに、二日と要らなかった。

「へえ、面白いことに興味を持つんだな」
研修期間を終えて手すきになったセツが、宿を訪ねると二人は図書館へ向かうところだった。図書館脇のガーデン広場でひとときの晴れ間を愉しむように、青年二人はテラスのテーブルに腰掛けている。当のイウギはそこから見える窓のところで黙々と簡単な児童書を読んでいた。
「俺も文字は少しはわかるが・・・ああやって本を読んだことはないな。少し見習うか」
黒髪の青年が苦笑して言う。ブロンドの青年も、微笑って答えた。
 近くに売店が出ているのだが、館内では飲食が出来ないので、セルイはイウギを外へと誘った。先に席で飲み物とサンドを用意していたセツが、面白そうにイウギへ尋ねた。
「何を読んでいたんだ?」
「ん、英雄と竜と悪者王のはなし。これ俺が故郷にいたときに聴いていた話に似てるんだよな」
云って、子供には手に余りそうな大きな表紙を二人に向かって見せた。
「ちょっといいですか・・・エレバイン編著・・・ああ、」
表紙の題目と編著者の名前を覗き込んで、一人セルイが合点した声を上げた。
 二人には、この感嘆の声の意味はわからない。
 それから昼食を平らげて小一時間ほど雑談したが、セツはついにセルイの行った“不可解”について詮索することはなかった。イウギもその事は忘れているようだった。勿論青年は、自らそのことを説明する気もない。話題は主に、セツが今の職場でやっていけそうだ、ということと、イウギの日々の雑感に終始した。


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