16−7

「意識が戻ったのか、よかったな。」
工場の親方に一言云って、作業場を出てきたセツは珍しく表情豊かに子供に笑いかけた。それに負けない笑顔をイウギも見せる。
「七日も眠ってたなんて、俺信じられないよ。今だって元気だしさ。セルイが心配しすぎでもうちょっと落ち着いてからどうか、っていうんだけど、早くセツの顔見たくてさ!」
珍しいほどに雄弁な子供の言葉に、セルイは少し苦笑を漏らした。セツもイウギの方を向いてはいるが、青年の表情も見逃さない。
「そうだな。俺も心配したぞ。でも安心した。今は、前よりも元気なくらいだな」
云われて興奮しすぎた自分に気づいたか、イウギは顔を赤くした。
 昨日までは、確かに顔や腕に包帯を巻いていたこの子の肌が、今はまるっと綺麗になっている。セツは内心そのことに瞠目していた。きっと、この青年が何かしたにちがいない。自分の脚を、いともたやすく真っ直ぐにしてしまったときのように・・・。
 セツの足は今も見事にピンしゃんしている。この工場の人達は、数日前までセツが杖つきでやっと歩いていたなんて夢にも思うまい。そのことについて、セツは改まってセルイにお礼を言った。感謝の気持ちがあるというよりは、それが筋であると思うからだ。
「いいえ。お礼には及びません。私こそ、辛い体験をお話していただいたお礼に、と思ってやったことですから」
屈託なさそうに笑う青年に、そういえばそんなことも言っていたなと、セツはまた妙な気持ちになった。自分の頭上でやりとりする二人の様子を、イウギは交互に見回している。
「セルイがセツの足を治したのか?すごいな!俺のも治してもらったんだぜ。一体どういう・・・」
と子供が云い指したところで、青年がやわらかく口元に「しっ」と人差し指をたてた。親方がセツを呼び戻しに、路地側へ近づいてきたからだ。
「作業をしないんなら、道具を片づけておいてくれ。工場は狭いんだ。他の者(モン)が使えないだろう」
「あ、すみません。今すぐ戻ります」
工場へ引き返す親方の背中を見ながら、セツが「すまないな、戻らないと」といった。セルイも首を振って
「いいえ、お仕事中すみません。さ、イウギさん。今日はこのくらいで・・・」
と促した。
「うん、セツ。またな!」
次はもう少し落ち着いた場所で会う約束をし、イウギとセルイは連れだって、大通りの方面へと消えていった。


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